水素結合とイオン間相互作用の組み合わせによる構造の定まったイオン対形成を基盤として、有機イオン対の構造制御に立脚した高効率かつ高選択的な分子変換反応の開拓を目指して研究を行った。鍵構造として取り上げたP-スピロ型キラルアミノホスホニウムイオンの機能別に、今年度の研究成果の概要を示す。 (a) 共役塩基の触媒作用:トリアミノイミノホスホランの強塩基性を利用することで過酸化水素を有効に活性化できる事実を見出し、高立体選択的酸化反応の開発へとつなげた。具体的には、塩基により活性化した過酸化水素とトリクロロアセトニトリルから生成させた酸化活性種によるN-スルホニルイミンのエナンチオ選択的酸化反応を極めて広い基質一般性で実現した。加えて、触媒がイミンのα位の立体情報を認識できることを発見し、酸化的な速度論的光学分割を経るN-スルホニルオキサジリジンのジアステレオ選択的合成に成功した。 (b) 超分子イオン対の触媒作用:P-スピロ型テトラアミノホスホニウムエノラートが、水酸基を持つ非イオン性Lewis塩基を取り込んだ超分子会合体を形成する現象を利用し、共役付加反応における選択性の高度制御を成し遂げた。この時、用いるカチオンとLewis塩基の組み合わせを適切に選ぶことで、ジアステレオマーの作り分けが可能になる現象を見出した。 (c) イオン性Bronsted酸触媒作用:イオン性Bronsted酸が金属触媒と協働する新たな触媒系を創出し、従来に例の無い制御プロセスを経る高エナンチオ選択的な結合形成反応へと展開した。本反応では、金属触媒の作用により生成した反応活性種が有機分子触媒による反応性の制御を受け、望みの反応経路が優先する点に特徴がある。 (d) 二相条件下での触媒作用:基本骨格の修飾による触媒性能の改善に取り組んだが、これまでのところ有効な新規骨格を見出すには至っていない。
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