申請者のこれまでの研究により実証された、水素結合とイオン間相互作用の組み合わせによる構造の定まったイオン対形成を基盤として、有機イオン対の構造制御に立脚した高効率かつ高選択的な分子変換反応の開拓を目指して研究を行った。鍵構造として取り上げたP-スピロ型キラルアミノホスホニウムイオンの機能別に、今年度の研究成果の概要を示す。 (a) 共役塩基の触媒作用:多重選択性の同時制御を指向した共役付加反応を設計し、極めて高い選択性を発現する触媒システムを確立した。本反応では、原理的に32種類の付加生成物が得られるが、適切に構造修飾したイミノホスホランを触媒とし基質および反応条件を最適化することで、単一の生成物のみを収率良く得ることができた。また、汎用塩基を触媒とした場合には分離困難な複数の付加体が生成することを確認し、本触媒系の優位性を実証した。 (b) 超分子イオン対の触媒作用:上記(a)と類似の共役付加反応系において、水分子を取り込んだ超分子型イオン対触媒が特に有効に機能することを見出した。本系では、分子集合の安定性を担保するために適度な低温条件が必要であるが、広い基質一般性で目的の付加体が得られる。また生成物は、様々な非天然型アミノ酸誘導体の前駆体として有用であり、実際に、いくつかの多官能基化されたα-四置換アミノ酸誘導体へと容易に変換できた。 (c) イオン性Bronsted酸触媒作用:昨年度までに開発したイオン性Bronsted酸がラジカル生成触媒と協働する触媒系に関する研究の過程で得られた知見を基に、酸化還元プロセスの順序が本質的な問題にならない反応系があることを初めて実験的に示した。 (d) 二相条件下での触媒作用:これまでの触媒システムの限界を打ち破るため、触媒基本骨格の修飾に取り組んだが、これまでのところ有効な新規骨格を見出すには至っていない。
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