研究概要 |
位置選択的、化学選択的酸化触媒の開発を目指し、ニトロキシル型酸化触媒の開発を行った。TEMPOに代表されるニトロキシル酸化触媒は環境調和型酸化法として注目を集めている。TEMPOはニトロキシル基のα位に4置換炭素が存在するため、反応性の低さを回避できないが(2級アルコールの酸化に適さない)、この4置換炭素は触媒の安定性に必須である。岩淵らはBredt則を利用してこの問題を克服した高活性触媒AZADOを、尾野村らはAzabicyclo-N-oxylを開発している。このような立体的チューニングに対し、我々は電子チューニングによる活性化仮説に基づき、ニトロキシル酸化触媒を開発した。本触媒はニトロキシル基のα位に2つの電子吸引基(エステル基)を持つため、TEMPOやAZADOより遙かに高い酸化還元電位を持ち、本触媒から生成するオキソアンモニウムは高い反応性を示し、ニトロキシル基のα位に4置換炭素を持つにもかかわらず、2級アルコールの酸化に一般性を示した。また、ベンジル位アルコールの選択的酸化や基質の電子環境を高度に識別する化学選択性を示した。さらに、立体的に込み入ったアリールアルキルカルビノールの酸化的速度論的分割では比較的高いエナンチオ選択性を示した(Tetrahedron Lett.. 2014, 55, 1943-1945)。本触媒による酸化の機構は水酸基のオキソアンモニウムへの攻撃ではなく、律速段階でのヒドリドシフトを含むことも明らかにした(Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 8093-8097.)。このヒドリドシフトに際し、触媒のα位エステルカルボニル基と基質アルコールとの水素結合形成による寄与も想定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで有機合成化学は官能基変換の化学として成熟した研究分野に発展してきた。一方で、分子内に同じ官能基を複数持つ化合物の位置選択的変換は現代有機化学の未解決課題である。例えば、多糖類の合成がペプチド合成に比べて格段に複雑なのは、糖類が複数の水酸基を持つため、それらを区別して結合形成を行う困難さに起因している。この問題点はこれまで複数の水酸基の保護-脱保護による多段階合成法により克服されてきた。一方、我々はこのような多段階の保護-脱保護操作によらない一段階の触媒的位置選択的官能基化に取り組み、位置選択的アシル化法を見いだしている。本触媒的アシル化は反応性の高い6位第1級水酸基ではなく、本来反応性の低い4位第2級水酸基上で進行する。本研究ではこのような触媒制御による、基質の反応性には準拠しない反応性制御を目指した研究を行っている、これまでに、ニトロキシル型酸化触媒の開発(Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 8093-8097)、アリールアルキルカルビノールの酸化的速度論的分割(Tetrahedron Lett.. 2014, 55, 1943-1945)、アミノ基と水酸基間距離識別に基づく立体障害の大きい水酸基上でのアシル化(Chem. Commun. 2012, 48, 6981-6983)、4置換オレフィン類の高度に幾何異性選択的アシル化(Adv. Syn. Catal. 2012, 354, 3291-3298)、8つの遊離水酸基を持つ強心配糖体の位置選択的官能基化(J. Org. Chem. 2012, 77, 7850-7857)、さらに触媒的アシル化におけるカルボキシレート効果の解明(Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 6445-6449)を達成した。
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