研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
23105009
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
根東 義則 東北大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (90162122)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機触媒 / 芳香環 / 脱プロトン化 / 官能基 / 選択性 / 分子変換 / 芳香複素環 / 結合活性化 |
研究実績の概要 |
芳香環の有機触媒的な修飾法として、ケイ素化有機塩基とフッ化物から系内で発生させた塩基を利用する触媒システムの開発を行った。まず、トリメチルシリルアミン類とフッ化オニウムとの組み合わせによりオニウムアミドを系内発生させ、これを触媒的に使い芳香環の脱プロトン化とカルボニル化合物などの親電子剤との反応を行った。比較的酸性度の高いベンゾチアゾールからベンゾチオフェンやベンゾフランまで修飾反応を行うことができ、ハロゲン基やシアノ基、アルコキシカルボニル基などの官能基との共存も可能であることが明らかになった。またカチオン部分をオニウムからセシウムカチオン、ルビニウムカチオンに変えると微妙に反応性が変化することも判り、新たな選択性の発言が期待される。さらに親電子剤としてケイ素化剤を用いて芳香環の脱プロトン化-ケイ素化反応を試みたところRuppert試薬(TMSCH3)を用いた時に円滑にケイ素化反応が進行することが明らかとなった。活性化剤としてはフッ化オニウムよりもフッ化セシウムあるいはフッ化ルビ時有無を用いた場合に良好な結果が得られた。またこのケイ素化反応は高い官能基共存性を示し、ハロゲン基、シアノ基、アルコキシカルボニル基の隣接位の選択的なケイ素化を実現した。ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、チオフェンなどの芳香複素環のみならずベンゼン環上においても進行しうることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに芳香環のC-Hを選択的に修飾する有機触媒システムの設計を行い、有機超強塩基触媒を用いる方法、系内発生オニウムアミドを用いる方法などを開発してきた。オニウムアミドの反応においては、カルボニル化合物を親電子剤として共存させることにより、系内で発生した芳香族アニオンの付加体を生成させ、その付加体がさらに塩基を再生することにより触媒サイクルが成立するものであったが、他の親電子剤との反応は未開拓であった。今回、有機ケイ素化合物を親電子剤とする新しい反応の設計を試み、トリフルオロメチルトリメチルシランを塩基前駆体および親電子剤の両方の機能をもった試薬として用いることにより芳香環の選択的な脱プロトン化-ケイ素化反応の開発に成功した。この反応では系内で発生したトリフルオロメチルアニオンが脱プロトン化剤として働いており、芳香環の脱プロトン化にこれまで利用された例は知られていない。このケイ素化反応はベンゾチオフェン、チオフェンなどの芳香族複素環化合物を基質として検討を始めたが、幅広い官能基との共存が可能であり、特にニトロ基など従来の有機金属化学の手法では達成が困難な基質についてもケイ素化を行うことが可能である。さらにニトロベンゼン誘導体においても展開の可能性が示され今後のこの反応の適用範囲の拡大には興味が持たれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究により、有機触媒プロセスが求核攻撃に敏感な官能基との共存が可能であるとの知見がえられたので、今後はさらに難易度の高い選択的な修飾反応を展開する。特にこれまで脱プロトン化反応による修飾が困難とされてきた芳香族ニトロ化合物の脱プロトン化修飾を中心に検討を進める。親電子剤としては、カルボニル化合物、有機ケイ素化合物のほかに有機ホウ素化合物やハロゲン化合物を検討し、芳香族ホウ素化合物や芳香族ハロゲン化合物の合成への展開を検討する。また、親電子剤として二酸化炭素を用いる反応は極めて重要と考えられ、これまで開発した反応における挙動を詳細に検討し、新しい触媒システムの構築を図る。またこれまでは反応剤のカチオンにオニウムを用いてきたが、関連するセシウムやルビジウムカチオンの反応も検討し、その際にはキラルなリガンドを共存させ不斉変換反応も検討する。また、触媒設計においては正しい現象の理解が不可欠であるので、反応機構を明らかにするためにNMRを用いる反応の追跡などについても検討を加える。研究計画については特に変更することなく当初に設定した目標に向かって着実に新現象の発見と新反応の開発を進めていく。
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