研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
23105010
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | 有機触媒 / タミフル / 不斉反応 / エナミン / マイケル反応 / 触媒反応 |
研究概要 |
我々は既に、タミフルの2ポットでの合成法を報告している。我々は、我々が開発したdiphenylprolinol silyl etherを触媒とするα―アルコキシアルデヒドとトランスニトロアルケンの不斉触媒マイケル反応を鍵反応として、タミフルの全合成を行った。我々の報告後、上海有機化学研究所のMa等は我々と同じアルデヒドとシス体のニトロアルケンとの不斉マイケル反応により、タミフルの短工程合成法を報告した。触媒は我々とは逆のエナンチオマーを用いているにも係らず、生成物の絶対立体配置は同一である。これは化学的に非常におかしい。この理由を明らかにするために、スイス連邦工科大学(ETH)のSeebach教授と反応機構に関する共同研究を行った。エナミンをNMRで観測したところ、驚く事に、シス体、トランス体が1.6:1であった。アルキルアルデヒドの場合はトランス体しか得られないのに対し、非常に興味深い結果である。このエナミンの混合物に、シスとトランスのニトロアルケンを別々に加え、詳細に反応の進行を調べたところ、シスのニトロアルケンの場合はシス体のエナミンだけが選択的に反応した。これに対し、トランスのニトロアルケンの場合はトランスのエナミンのみが反応した。また,本反応には酸の添加が必須であるが、酸性条件下ではシスとトランスのエナミン間には早い平衡がある事がわかった。これらの結果より、シスとトランスの両エナミンが生成するが、シスのニトロアルケンではシスのエナミンが優先的に反応し、残ったトランスのエナミンは酸性条件下シス体に異性化するので、全てのエナミンがシス体のニトロアルケンと反応して生成物を与える。このように、シス、トランスのそれぞれのエナミンの反応性、シス/トランス間の異性化のスピードの微妙なバランスの上に、興味ある現象が観測された事を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画は、既に開発した2ポットのタミフルの合成法を改良して、より実用的な合成法の開発を目指していた。しかし、その検討の過程で鍵となる反応のメカニズムに関して奇妙な現象が観察された。反応機構に関して検討を行った結果、新しい重要な知見を得る事ができたが、タミフルのより優れた合成法の開発に関する当初の計画研究が遅れた。この検討で得られた知見は、より良いタミフルの合成を目指す上で非常に重要な情報であり、次年度の研究に役立てる事ができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
我々はアルデヒドとニトロアルケンに我々の開発したdiphenylprolinol silyl ether を作用させると不斉触媒マイケル反応が進行すると考えていた。今回反応を詳細に検討する事により、当初予期していたマイケル反応ではなく、2+2付加環化反応、ヘテロDiels-Alder反応が進行している事が明らかになった。また酸が反応に必須であるが、その酸の役割も明らかにする事ができた。これらの知見は、有機触媒反応を設計する上で非常に有用である。我々は、既に2ポットでのタミフル合成を開発しているが、次年度はワンポットでの、より効率的な合成を目指す。その際に、鍵反応となるアルデヒドとニトロアルケンの不斉触媒反応をより高いジアステレオ選択性で行う必要がある。その際に、今回の反応機構に関する知見は多いに役立つ。
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