研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
23105010
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機触媒 / 不斉触媒反応 / 天然物 / 有機合成化学 / ワンポット反応 |
研究実績の概要 |
フロー化学は連続的に反応を進行させる手法であり、中間に生成する化合物の単離・生成が必要なく、効率的な物質生産方法の一つである。既にタミフルのone-pot 合成を達成したので、さらに効率的な合成法の開発を目的にフロー合成への適用に関して検討を行った。フローに適用する際に問題点が4つある。1)チオールのマイケル反応、およびレトロマイケル反応が長時間である。2)原料のニトロアルケンが反応溶媒に難溶であり、溶解度の高い極性溶媒ではsyn/antiの選択性が低下する。3)固体塩基Cs2CO3を使用している。4)固体還元剤である亜鉛を用いている。それぞれに関してまずバッチでの検討を行った。1)に関してはチオールのマイケル反応は5位の立体を望みの立体に異性化させるためであり、この操作を削除し、その代わりに塩基による異性化を検討した。その結果、t-BuOKを用いると約1:1で望みの異性体が得られる条件を見出した。2)に関しては徹底的な溶媒検討を行ったが、望みの条件を見出す事はできず、添加剤の組み合わせによる解決を試みた。その結果、チオウレアを触媒量添加する事により、反応速度が大幅に向上し、目的物を立体選択的に得る事ができた。タミフルの合成の進展は以上である。この他にも、有機触媒を用いた不斉触媒反応の開発として、diarylprolinol silyl etherを用いた, β,β-2置換α,β-不飽和アルデヒドとニトロメタンのマイケル反応による不斉4級炭素の構築、diphenylprolinol silyl ether触媒におけるシリル基上の置換基効果、diarylprolinolを用いたホルムアルデヒドの不斉アルドール反応、α-アセトキシイミノアルデヒドを求電子的アルデヒドとする不斉アルドール反応を開発した。更に、不斉触媒マイケル反応を鍵反応とする3ポットでの(-)-Horsfiline と (-)-Coerulescineの全合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
タミフルの合成に関しては、これまでの検討でone-potでの合成を達成し、現在はフロー化学への適用を検討している。当初予期していた以上に、最適条件を見出すのに苦労した。まずはバッチでの反応条件の検討を行っているが、良い結果が得られてきており、着実に目的にむかって研究が進展していると考えている。タミフル以外の有機触媒を用いた反応開発では、β,β-2置換α,β-不飽和アルデヒドとニトロメタンのマイケル反応による不斉4級炭素の構築、diphenylprolinol silyl ether触媒におけるシリル基上の置換基効果を見出す事ができた。またdiarylprolinolを用いたホルムアルデヒドの不斉アルドール反応、α-アセトキシイミノアルデヒドを求電子的アルデヒドとする不斉アルドール反応の開発を行う事ができた。これらは予想以上の成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
タミフルの合成に関しては、既にone-potでの合成手法の確立を達成し、現在フロー化学への適用を検討している段階である。問題点は明らかになっているので、その問題点の解決のために、まずはバッチ方式で検討を詳細に行っている。既にいくつかの問題点に関しては解決する事ができている。残されている大きな課題の一つは、固体である亜鉛を用いたニトロ基のアミンへの還元反応である。フローに適用するために、亜鉛をカラムにパックして使用する、あるいは亜鉛を用いた還元法に変え、水素を還元剤とし固定化触媒を用いる還元法に変更する、などの工夫により、この課題を解決する予定である。その後、反応全体の短時間化を検討する。バッチでの最適化を完了した後、フロー化学への適用を図る予定である。
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