研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
23105013
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
長澤 和夫 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10247223)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 有機触媒 / 不斉反応 / グアニジン / チオウレア / ウレア / マンニッヒ反応 / アルファ位水酸基化 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、構造自由度の大きい鎖状グアニジン/ビスチオウレア触媒を用い、溶媒依存的なエナンチオ多様性マンニッヒ型反応の開発しており、単一有機触媒を用いて、二つの異なる立体選択性が制御可能であることを報告している。本研究では、本反応のメカニズム解析、可逆性の検討を行い、更に高度な触媒的スイッチング反応の開発を目指した。 反応機能の解析の結果、m-キシレンを用いる (S)-選択的反応及びアセトニトリルを用いる (R)-選択的反応いずれにおいても、立体選択性は単一触媒活性種により制御され、グアニジン官能基とチオウレア官能基の協調効果が重要であることを明らかにした。次に、m-キシレン/アセトニトリル混合溶媒を用いて反応を検討した結果、混合溶媒の比率に依存してエナンチオ選択性が変化することを見出した。これらの知見をもとに、1つ目の終了後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した後、2つ目の反応を同一行う連続エナンチオスイッチング反応を開発した。新たに開発したこの反応系は、i) (S)-選択性から (R)-選択性、ii) (R)-選択性から (S)-選択性へのいずれのスイッチング反応にも適用することが可能である。反応条件を適切に選択することで、鎖状グアニジン/ビスチオウレア触媒は、可逆的に立体選択性を制御できることを示すことができた。 また本触媒を用い、生理活性物質を合成するための新たな不斉反応の開発を行った。カルボニルアルファ位に水酸基を持つ生理活性天然物は、カンプトテシン、ダウノマイシン等の抗腫瘍活性化合物に多く存在し、その立体化学が活性発現に重要な役割を果たすことが知られる。鎖状グアニジン/ウレア触媒を用い、CHPを酸化剤として1,3-ジカルボニル化合物に対する酸化反応を検討した結果、テトラロン誘導体に対して、高立体選択的に水酸基を導入することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複雑な有機化合物を合成する際、その分子変換過程において、「変換反応→単離(反応停止-分液操作-精製)→変換反応」のプロセスを繰り返す必要がある。これを単一の触媒でかつ1つの反応容器で立体選択性を損なうことなく行うことができれば、より環境に優しい変換プロセスが実現できることになる。これらの目標に対し、溶媒により生成物のエナンチオ選択性が逆転するという知見をもとに、エナンチオ選択的マンニッヒ型反応において、単一触媒による連続的エナンチオスイッチング反応の実現に成功した。 またテトラサイクリン系生理活性天然物等の合成に必須のカルボニルアルファ位の水酸基化反応について、これまで研究室で開発してきた鎖状グアニジン/ビスウレア型触媒を用いることで高立体選択的に目的とする生成物を得ることに成功した。これにより、次年度以降の生理活性天然物合成に向けての研究基盤を築くことができた。 以上の成果は、当初の計画を十分に達成した成果であり、計画通り進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)鎖状グアニジン/ビス(チオ)ウレア触媒によるエナンチオスイッチングの機構解析 私達がこれまでに見いだした鎖状グアニジン/ビス(チオ)ウレア触媒は、外部刺激(反応溶媒)により不斉環境が変化し、生成物の絶対立体配置が逆転する場合がある。しかしながら、当該の知見は一部の反応に限られる。このエナンチオスイッチングが発現する機構を解明することができれば、これを応用した連続的エナンチオスイッチング反応を基盤として、様々な生理活性物質を効率よく合成することができる。そこで、計算化学を用いながら当該触媒の構造展開を系統的に行うことで、本触媒を用いた反応遷移状態の解析を行い、エナンチオスイッチング機構解明のための研究基盤を構築する。 (2)有機分子触媒反応を基盤とする生理活性天然物の合成 これまで見いだした鎖状グアニジン/ビス(チオ)ウレア触媒も用いる不斉反応を基盤として、ダウノマイシン、カンプトテシン等の抗腫瘍活性物質の効率的合成を検討する。またより複雑な骨格を効率よく構築するためのカスケード反応について検討を行い、生理活性天然物への応用を展開していく。
|