計画研究
我々が開発した鎖状グアニジン/ビスウレア触媒を用い、テトラロン骨格を有するβ-ケトエステルに対するα位の不斉酸化反応(水酸基化反応)について検討を行った。その結果、酸化剤としてクメンハイロドロパーオキサイド(CHP)を用いることで、高い不斉収率、化学収率で対応する酸化物を得ることに成功した。そこで本反応を基盤に、現在がん化学療法で用いられているダウノマイシンの触媒的不斉合成について検討を行った。その結果、高い光学純度かつ短工程で合成鍵中間体の合成に成功した。さらに開発した不斉酸化反応を基盤に抗腫瘍活性物質カンプトテシン(CPT)の触媒的不斉合成法について検討を行った。CPTはA環からE環までの5環性化合物であり、これまでに、CPTがE環ラクトン上20位に有するS配置の不斉第三級水酸基が活性の発現に必須である事が明らかとなっている。20位への直接的酸化反応は、内在するビニロガスジカルボニル化合物の性質により、不斉酸化反応の条件が適用できると考え、種々検討した結果、10 mol%のグアニジンーウレア触媒存在下、トルエン中、CHPを1.5当量、炭酸カリウム1当量を0 °Cにて24 時間作用させる事により、目的とする化合物を収率95%、84% eeで得られることを見出した。本反応の基質一般性について確認したところ、±位の置換基がメチル基やブチル基、ベンジル基においても高エナンチオ選択的に酸化反応が進行し、光学活性なCPT鍵中間体へと誘導できることを見出した。また、本手法を用いることで20位置換基にベンジル基を有する新規CPT誘導体の合成にも成功した。
2: おおむね順調に進展している
これまで開発してきた鎖状グアニジン/ビス(チオ)ウレア触媒 を用い、新たな不斉反応として、βケトエステルのα位への不斉酸化反応を開発することに成功した。本反応では、これまで有機触媒で困難だった、テトラロン誘導体においても高い不斉収率で対応する酸化体が得られることが特徴である。テトラロン誘導体には、生理活性物質が数多く知られていることから、創薬リード合成への重要な不斉合成基盤を構築することが可能となった。特に今年度は、現在抗がん剤として用いられているダウノマイシン、カンプトテシンの触媒的不斉合成に成功した。本触媒反応を用いることで、これらの化合物に対してこれまで行われてこなかった新たな構造活性相関研究への展開も可能となる、実際カンプトテシンについては、C20位にベンジル基を有する新規誘導体の合成にも成功している。本酸化反応は、様々な応用展開が可能であり、次年度以降の更なる生理活性天然物合成に向けての研究基盤を築くことができた。以上の成果は、当初の計画を十分に達成した成果であり、計画通り進行している。
β位やγ位に置換基を有するテトラロン誘導体は生理活性天然物に数多く見られる構造であるが、光学活性な当該構造を得るのは、非常に困難である。これは、カルボニルβ位に不斉炭素を構築する際に一般的に用いられる不飽和カルボニル化合物への1,4付加型反応を用いることができないためである。即ちテトラロン由来の不飽和カルボニル化合物は速やかに芳香族化し、ナフトール誘導体になってしまうからである。そこで、β位に置換基を有するβケトエステル型テトラロン誘導に対して、不斉酸化反応を基盤とした、速度論的光学分割により、β位に不斉置換基を有するテトラロン誘導の合成手法を確立する。また本手法を生理活性天然物へと応用することを検討する。さらに領域内での共同研究を基盤に新たな不斉反応を開発し、これを基盤とする生理活性天然物合成も展開する。具体的には、秋山等が開発したリン酸触媒による不斉還元反応を環状化合物へと応用することで、アルカロイド類の不斉合成を検討する。
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