研究領域 | ナノメディシン分子科学 |
研究課題/領域番号 |
23107005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 一彦 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90193341)
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研究分担者 |
井上 祐貴 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40402789)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノメディシン / ポリマーナノ粒子 / 細胞親和性 / 細胞膜透過性 / 量子ドット / オリゴペプチド / リン脂質ポリマー |
研究実績の概要 |
細胞内の任意の場所にナノ粒子を輸送する際、細胞膜の透過およびエンドソームは障害となる。今年度は、細胞への取り込みと細胞内での移動プロセスに注目し、細胞親和型ポリマーナノ粒子の表面をカチオン性オリゴペプチドで修飾した。その特性に応じたナノ粒子の細胞内動態を定量的に解析することによって、量子ドット(QD)内包リン脂質ポリマーナノ粒子の選択的な細胞内輸送を実現した。また、細胞内において長時間安定に蛍光を発する構造を規定し、細胞の増殖プロセス(倍加時間)に対応した観察時間を達成した。 ラジカル重合により合成したリン脂質ポリマー(PMBN) と、ポリ乳酸 (PLA)を用いて溶媒蒸発法によりQD内包リン脂質ポリマーナノ粒子 (PMBN/PLA/QD) を調製した。TEM観察より調製したPMBN/PLA/QDが粒径10―20 nmの球形の粒子であり、QDを1―8個程度内包していることがわかった。ナノ粒子作成時において、超音波照射時間が長くなるにつれて蛍光量子収率が低下した。照射時間が5分間以上でPMBN/PLA/QDの粒径が変化しなかった。これより、超音波照射時間を短縮することによってPMBN/PLA/QDの高輝度化に成功した。 PMBN/PLA/QDのバイオイメージング能を評価した。表面に結合するオリゴペプチド中のR8/G8の割合が増加するにつれてナノ粒子の細胞内への取り込み量が増加した。PMBN/PLA/QDの表面に2種類の異なるオリゴペプチドを固定して細胞内に導入することが可能であった。R8-PMBN/PLA/QDは、細胞内に取り込まれた後も細胞倍加時間を超える期間安定に細胞内に存在することが明らかとなった。また、R8-PMBN/PLA/QD はエンドソームとの共局在率が低いことがわかった。これはR8-PMBN/PLA/QDがエンドソームから脱出したことを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光特性の高い量子ドット内包型細胞親和型ポリマーナノ粒子の作成について、その条件を詳細に検討した結果、安定な粒子の作成に成功した。これにより、細胞内取り込み過程、バイオ分子輸送過程を詳細に観察、議論できる蛍光イメージングプローブを得ることができた。細胞取り込み過程に対する細胞膜透過オリゴペプチドの効果を明確にできたことは、従来、不明確であったオリゴペプチドと細胞膜との相互作用に関する情報を得ることにつながった。これは本年度の研究計画の目標の一つとしているものであり、現象として認められてきたオリゴペプチドの役割を分子的に議論できる一歩となった。さらに、細胞内に長期間、安定に滞留できるポリマーナノ粒子はこれまでに存在しなかったが、本研究の結果、これが可能となる事実を見いだした。すなわち、細胞応答に全く影響しない細胞親和型ポリマーによる表面の修飾により、30時間以上も細胞内に安定に維持できることが示された。この間、細胞は分裂、増殖するが、全細胞中に取り込まれたポリマーナノ粒子由来の蛍光強度は一定であった。これは、細胞内からのポリマーナノ粒子の流出がないことを示している。このような安定な蛍光特性と細胞親和性を合わせた特徴を持ったイメージングツールは、世界的に見ても例はない。本研究申請において大きな基盤となる成果であると考える。この特性を利用して、蛍光イメージングポリマーナノ粒子を用いた細胞分裂過程を含む長時間の細胞内蛍光連続観察に世界で初めて成功した。これらのことより、研究計画は順調に進行してきていると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により、細胞親和型量子ドット内包ポリマーナノ粒子のイメージングプローブとしての有効性が明確となり、長期間にわたる細胞応答、組織形成過程を追跡できることが示された。さらに表面に結合したバイオ分子の選択についても有効な情報を得ることが可能となった。これらを利用し、さらに任意のバイオ分子を細胞内に取り込むための必要条件を明確にする。このことは、細胞応答を制御するとともに細胞機能をより高める技術になる。安定な細胞内滞留性と細胞親和性を基盤とすると、細胞を利用した組織工学への展開についても可能となる。すなわち移植した細胞が組織を形成する際に、どの部分に移植細胞が留まるのか?その細胞の周囲に形成される組織は、移植細胞由来かもしくは細胞からのシグナル分子の拡散により誘導された細胞なのか?など組織再生医療の基盤となる情報を提供できる。当初の研究計画にはなかった項目であるが、この点に関したも今後考えて行く。
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