研究領域 | ナノメディシン分子科学 |
研究課題/領域番号 |
23107005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 一彦 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90193341)
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研究分担者 |
井上 祐貴 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40402789)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | ナノメディシン / ポリマーナノ粒子 / 細胞親和性 / 細胞膜透過性 / 量子ドット / オリゴペプチド / リン脂質ポリマー / 分子ビーコン |
研究概要 |
細胞内の任意の場所にナノ粒子を輸送する際、細胞膜の透過およびエンドソームへの捕捉は障害となる。今年度は、イメージング性能の向上を目指し、多数の量子ドット(QD)を一つの2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーナノ粒子に内包する手法を確立し、高輝度化を実現した。さらに表面に結合させるオリゴペプチドの種類と組成を変化させることで、細胞内器官への分布を調節する試みを行った。活性エステル基を有するMPCポリマーでQDを被覆したナノ粒子(PMBN/PLA/QD)を作製した。さらに、その作製条件の検討により高輝度化を実現した。 細胞機能として特定分子の核輸送に着目し、核輸送に必要な特性をキャリアーに付与するバイオ分子の化学構造と動態の関係を定量的に評価した。細胞膜透過性ペプチドであるR8と核移行シグナルペプチドであるNLSを用いて、細胞膜透過性および核移行性をPMBN/PLA/QDナノ粒子に付与した。核まで達するには、途中段階の細胞膜透過および細胞質移行を効率よく行うことが重要ため、NLSとR8の組み合わせおよびポリエチレンイミン(PEI)を用いて細胞膜透過および細胞質移行の効率化を評価した。R8の割合の増加によりエンドソームからの脱出効率が高まることがわかった。また、PEIの共固定も有効であった。核への物質送達には細胞内においてNLSの機能発現が必要である。NLSに加えR8を固定化することで、核輸送に必要な細胞膜透過性および細胞質移行能をキャリアーに付与することが可能であることが示唆される。また、新たに水溶性両親媒性MPCポリマーに分子ビーコンを結合した分子捕捉キャリアーを合成し、細胞内への拡散現象による取り込みと、細胞内でのmRNAの選択的捕捉特性に対するポリマー分子構造の影響について評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は超音波照射がQD内包MPCポリマーナノ粒子の蛍光量子収率に与える影響を評価することによりQD内包MPCポリマーナノ粒子の高輝度化を目指した。ポリマーナノ粒子に包埋する条件を厳密に制御することで、量子ドットの蛍光量子収率を30%程度と、従来の3倍以上に維持できることができた。さらに、一粒子中に複数個の量子ドットを内包する条件の確立にも成功した。この2点は、量子ドットをバイオ環境において直接適用する際の大きな問題である輝度の低下と点滅現象を解消する新規技術である。さらに、表面に結合するオリゴペプチドの影響について細胞膜透過とエンドソーム脱出過程を含む細胞内移動に分けて解明することができた。すなわち、本研究の目的としている細胞とバイオ分子との相互作用を分子レベルで解明できる、高輝度でS/N比の高い蛍光プローブを得ることができた。さらに、表面に結合するオリゴペプチドの役割について議論できるようになった。一方、新しい試みとして、ポリマー分子の精密制御により、特定分子に対して高い反応性を示す分子ビーコンのキャリアーとすることを行った。分子ビーコンは、mRNAに対する高い結合性を利用して、微量な標的mRNAを分析可能なことであるが、それ自体細胞膜透過することができない、生体環境で酵素分解を受けるなどの問題点があった。水溶性リン脂質ポリマーにこれを結合することで、これらの解消ができることがわかった。これら、本年度に見いだされた研究成果は、今後の本研究の展開に大きな知見となることから、全体の研究は極めて順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
量子ドット内包ポリマーナノ粒子は、共同研究者に提供しながら、細胞膜透過過程、細胞内移動過程の連続的計測を実施する。これより拡散定数を求め、細胞膜、細胞内での分子運動性を定量評価する。また、表面に結合するオリゴペプチドの種類を系統的に変化させることで、任意の場所に移行させるために必要な条件を、物理化学的パラメーターにより考察できるようにする。さらにこの情報を領域内研究者と共有し、薬剤やイメージングプローブの細胞内への移行とそれらの機能発現との関連性を探る。 一方、両親媒性の水溶性リン脂質ポリマーが、細胞膜中を拡散で透過することを認めている。この特性を利用し、細胞内へのバイオ分子の新しい輸送を試みている。すなわち、分子ビーコンを結合した水溶性リン脂質ポリマーは、細胞内における化学反応により生成する特定のmRNAを定量することができることが見いだされた。この生成速度より反応速度定数を産出する。細胞がその増殖周期を進める際に、様々なタンパク質因子が影響していると考えられる。細胞組織の疑似環境を細胞親和性ポリマーハイドロゲルを用いて構築し、これに内包されている細胞に対して、分子ビーコンを結合した水溶性リン脂質ポリマーを適用し、細胞の増殖、分化に関連する科学パラメーターを求める。最終的にはこれらと細胞応答であるがん化、アポトーシスなどとの関連性を検討し、病態の理解に結実させる。また、iPS細胞やES細胞の特異分化誘導に関連する分子科学パラメーターを解明し、効率的で安全性の高い組織再生医療の確立に貢献できるようにする。
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