研究領域 | ナノメディシン分子科学 |
研究課題/領域番号 |
23107008
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩田 博夫 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (30160120)
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研究分担者 |
岡本 行広 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (50503918)
有馬 祐介 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (90402792)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞 / 細胞凝集体 / 相互作用 / 配置 / 脂質 |
研究実績の概要 |
1.ポリ乳酸上での細胞パターニング ポリ乳酸(PLA)は組織工学用足場材料としてよく用いられる生分解性高分子であり,3Dプリンターを用いれば任意の3次元構造体を作製することができる。しかし,PLA表面は細胞接着性に乏しく,また,生体組織のように複数種の細胞を位置選択的に接着させることは困難である。PLAフィルムへ配列の異なるssDNAのパターンを形成,または配列の異なるssDNAを固定化したPLAファイバーを配置し,相補鎖を有するssDNA-PEG 脂質で修飾した細胞を播種することで,細胞のパターニングに成功した。 2.DNA分解酵素を用いた細胞の選択的回収 遺伝子工学で利用される,特定のDNA配列を選択的に切断する制限酵素を利用し,DNAを介して接着した細胞を選択的に回収することを試みた。制限酵素切断サイトを有するssDNA-PEG-脂質を設計し,それを用いて細胞-基板間および細胞-細胞間接着を誘導した。その後, 制限酵素の添加により,その切断サイトを有する細胞のみが脱離した。また,すべてのDNAを分解する酵素(Benzonase)を添加することで, DNAを介して接着した細胞をそのDNA配列に寄らず脱離させることができた。 3.脂質膜上におけるssDNA-PEG-脂質の挙動 ssDNA-PEG-脂質による細胞-細胞間接着をより詳細に調べるため,ガラス基板に形成した支持脂質二分子膜(SLB)を細胞膜モデルとして用いた。SLBを蛍光標識ssDNA-PEG-脂質で修飾し,その相補対ssDNA’-PEG-脂質で修飾した細胞を播種したところ,細胞の接着面にssDNA-PEG-脂質が集積することが明らかとなった。次に,二種類のssDNA-PEG-脂質をSLBに導入し,細胞の接着に伴うssDNA-PEG-脂質の挙動を調べた。その結果,細胞-SLB間の接着に関与するssDNA-PEG-脂質は細胞接着面に集積する一方,接着に関与しないssDNA-PEG-脂質は細胞接着面から排除されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数種の細胞からなる3次元組織の構築へ向け,ssDNA-PEG-lipidを用いたポリ乳酸足場への位置特異的な細胞接着の制御を実現することができた。この方法は再生医療実現のための基盤技術となると考えられる。また,DNA分解酵素を用いた細胞の選択的回収については,前年度までの問題であった生理的条件下での制限酵素の活性低下を抑える条件を見出した。これにより,当初の目的通り細胞の選択的脱離を実現することができた。これらは当初の計画通り遂行することができた。 さらに,ssDNA-PEG-lipidを用いた細胞接着におけるこの分子の役割・挙動を詳細に調べるため,支持脂質二分子膜を用いた新たな実験系に取り組んだ。これにより,ssDNA-PEG-lipidの振る舞いについて新たな知見を得ることができた。今後はこの実験系をさらに発展させ,種々の分子が混在する細胞膜環境を模倣した系を構築し,その条件下における細胞接着挙動について調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.細胞膜に導入されたssDNA-PEG-脂質の挙動解析 ①蛍光標識した単鎖DNA-ポリエチレングリコール-脂質複合体(ssDNA-PEG-脂質)を細胞膜またはガラス基板上に形成させた支持脂質二分子膜へ導入する。相補鎖ssDNA’-PEG-脂質で修飾した細胞と接着させ,それに伴うssDNA-PEG-脂質の局在状態を調べる。また,塩基数の異なるssDNA-PEG-脂質を作製し,相補対形成の相互作用定数が細胞の接着およびssDNA-PEG-脂質の局在状態に及ぼす影響を調べる。②支持脂質二分子膜へssDNA-PEG-脂質と共にPEG-脂質を導入し,膜表面分子が混在する細胞膜環境を模倣した系を構築する。他分子の混在がssDNA-PEG-脂質を介した細胞の接着へ及ぼす影響を調べる。 2.細胞間接着エネルギーの算出 DNAを介した細胞間接着エネルギーの算出を試みる。2つの細胞が接着した凝集体の形状を画像解析し,Hertzモデルを用いて細胞間の接着エネルギーを算出する。DNA 1対の相互作用定数,ssDNA-PEG-脂質の細胞表面密度,細胞接着面への局在を別途解析し,そこから想定される細胞間接着エネルギーとHertzモデルから得られる値とを比較する。 3.細胞表面へのタンパク質修飾法の開発 様々なタンパク質を細胞表面に導入し細胞機能を改変することを目的に,そのための細胞表面修飾分子を合成する。遺伝子組み換えタンパク技術により,様々なタグ配列(His, GST, Halo)を導入したタンパク質を作製することができる。これらのタグと特異的に相互作用するリガンドを結合したPEG-脂質を合成する。得られたPEG-脂質誘導体を用いて,タンパク質を細胞表面へ修飾し,特定の生理活性を付与できるか調べる。
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