研究領域 | 超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
23108004
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
門野 良典 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (10194870)
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研究分担者 |
幸田 章宏 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究機関講師 (10415044)
井上 克也 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40265731)
西田 信彦 公益財団法人豊田理化学研究所, その他部局等, フェロー (50126140)
小嶋 健児 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (60302759)
小池 洋二 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70134038)
橋詰 富博 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (70198662)
足立 匡 上智大学, 理工学部, 准教授 (40333843)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | 表面・界面 / ミュオンスピン回転 / 遷移金属化合物 / ヘテロ構造 |
研究概要 |
平成25年度は昨年度に続き主に超低速ビーム実験に向けた準備研究を行った。まず、一昨年度から研究を行っている非ドープT’相銅酸化物超伝導体の弱い磁性の起源を実験的に明らかにするために、新たに合成したT*相La214の薄膜単相試料についてLEM-μSRでの測定実験を行い、T’相La214で表面近くに見られる磁性相の原因が不純物として残留している頂点酸素による示唆を得た。(門野・小嶋・幸田/連携:内藤・山本)。また、ホールドープ系銅酸化物(La214系、Bi2223系)においても非磁性不純物Al3+の置換効果などを通して空間的に不均一な磁性が出現する様子について新たな知見が得られた。さらに非ドープ超伝導体T'-La1.8Eu0.2CuO4+δにおけるμSR測定の結果、超伝導とCuスピンの短距離磁気秩序の共存を示唆する結果を得た。(小池・足立/連携:藤森)。Bi2Sr2CaCu2Oxでは2-3nm長さスケールで20-60meVの異なる超伝導エネルギーギャップΔを持つ超伝導体が凝集し、さらにエネルギーΔの短距離秩序と実空間で共存しているとの描像をSTM/STSにより得た。(西田/連携:大熊、金子、平田)。界面に現れる磁性の研究では、LaCaMnO3/SrTiO3等の界面を含む遷移金属酸化物複合構造の製膜、およびそのバルク物性測定による特性評価が行われ、真空試料搬送システムの試験を行い良好な結果が得られた。(橋詰/連携:一杉)。さらに、キラル磁性体では、無機キラル磁性体CrNb3S6およびFeGeの単結晶育成条件の検討を進めた。FeGeについては、温度条件、化学輸送条件の最適化に成功した。分子キラル磁性体では、新しく2種類の結晶の合成に成功した。(井上、岸根/連携:秋光)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
T*相La214の電子基底状態の研究では、T’層La214のAs-grown試料に類似した150 K付近から発達する乱れた(あるいは時間的に揺らいでいる)磁性が観測された。これは、T’相La214で表面近くに見られる磁性相の原因が不純物として残留している頂点酸素によるものと矛盾しない結果になっており、T’層La214の弱い乱れた磁性の起源解明を前進させるものである。また、ホールドープ系銅酸化物(La214系、Bi2223系)においても非磁性不純物Al3+の置換効果から、磁性不純物のFe3+を置換した場合と類似の結果が得られ、超伝導とストライプ相関には密接な関係についての理解が進展した。Bi2Sr2CaCu2Oxでも2-3nm長さスケールで空間的に不均一な電子状態が重要であることを示唆する実験的な進展があった。界面に現れる磁性の研究では、作製した界面試料を大気暴露することなく超低速ミュオンビーム実験設備に搬送するための、真空試料搬送システムの試験を行い良好の結果が得られるなど、超低速ミュオンビーム実験に向けた条件等の最適化が進展した。さらに、キラル磁性体では、無機キラル磁性体CrNb3S6およびFeGeの単結晶育成条件を確定することが出来、新しく2種類の結晶の合成に成功するなど大きく進展した。(井上、岸根/連携:秋光)
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画班では、超低速ミュオン(USM)ビームによるミュオンスピン回転法(USM-μSR)を用いて、物質の表面・界面とバルクの境界領域に現れる特異な物性を探索するとともに、他の実験手法とも組み合わせてその微視的な機構を解明することを目指している。次年度以降、超低速ミュオンを用いたμSR(USM-μSR)による研究の開始が期待されることから、これまでの準備研究を踏まえて研究対象に優先度付けを行い、具体的な実験計画を策定・実行に移す。銅酸化物等の薄膜で現れる物性(KEK物構研・NTT基礎研・農工大グループ)、現時点では銅酸化物の電子的不均一性(東北大・上智大グループ)、磁束格子系の電子状態とダイナミクス(豊田理研・東工大グループ)、遷移金属化合物ヘテロ構造の界面に現れる物性(東工大・東北大WPIグループ)、キラル磁性体ソリトン格子のダイナミクス(広大・青学大・放送大グループ)、およびUSM-μSRと放射光メスバウアー法の相補利用によるスピントロニクス材料研究(名工大グループ)それぞれに有力な実験テーマが控えており、A01班との共同による超低速ビーム輸送系およびμSR分光器ののコミッショニングから初期のビーム特性を知るとともに、それに適した実験を選択し、優先的に実施する。
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