研究概要 |
LPSO相を含むマグネシウム合金に優れた力学特性が発現する素因の一つとして,LPSO相でキンク変形が高頻度に発生することがあると考えられている.本研究グループではLPSO相の力学特性に関するマルチスケール解析を主要な課題とし,キンク変形現象の詳細を明らかにすること,および濃度変調などの無い純金属HCP結晶からシンクロ型LPSO相に至る様々な結晶相について,すべり変形の基礎特性を比較調査することを目的としている. 初年度は,LPSO相の変形を研究するためのソフトウエアおよびハードウエア等の環境を構築した.またLPSO相の変形の基礎的特性を表現する数値モデルの検討を行い,種々の負荷条件下での変形について予備的な解析と結果の検討を行った.主な実施項目は下記のとおりである. ・マルチスケール解析のための解析手法の構築 これまで構築してきた結晶塑性解析手法を拡張し,底面すべりが卓越する変形モードとなるようにパラメータセットを設定し,LPSO相に特徴的なすべり変形特性を表現した. ・LPSO構造における転位挙動の解明 LPSO構造を模擬した原子スケールモデルを構築し,単軸負荷の下での転位の発生と運動に関する予備的シミュレーションを行った.負荷方位のα軸方位からの偏奇が小さい場合は,きわめて大きな応力負荷の下で急速かつ局所的に双晶変形が生ずる一方,結晶方位の偏奇が大きい場合には転位が低応力で発生し,モデル試料内をほぼα軸方向に移動する現象が観察された. ・キンク帯形成機構の解明 LPSO相にキンク変形が発生するための力学的条件を明らかにするため,いくつかの結晶塑性解析を行なった.その結果,試料内に結晶方位等の初期不均一性があると,そこを起点として局所的なすべりが開始し,それが発達してキンク変形に至ることが明らかになった.このとき,キンクバンド内には回位に相当すると考えられるような転位の蓄積も見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子スケール解析手法の構築では,LPSO構造の解析に対応する原子間ポテンシャルのパラメータセットを設定し,LPSO構造の非弾性変形の原子シミュレーションを試行する段階にまで達した一方,転位の易動度を評価するシステム構築までにはいたらなかった.マイクロスケールおよび,メゾ・マクロスケール解析では,結晶塑性解析によるキンク変形の過程が再現され,キンク変形をもたらす機構の概略を明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
原子シミュレーションでは,ひずみ速度が小さな場合の計算を行い,変形過程の詳細を検討する.また,すべりにおける転位対生成の活性化エネルギーの検討,積層周期が変形挙動に及ぼす影響などについても検討する. 結晶塑性解析では,LPSO相に生ずるすべりの加工硬化特性とキンク形成の関係の詳細を明らかにする。また,微視組織における初期不整や負荷状態がキンク変形発現へどのような影響を与えるかを調査する.大規模・高速解析の検討も進め,複数のLPSO相領域間の力学相互作用の様相を検討する.さらに,キンク境界における不適合度分布と回位ダイポール形成との関係を調査するとともに,LPSO構造を有する単結晶を多結晶に拡張し,結晶粒内のキンクバンド形成に及ぼす粒拘束や結晶方位の影響について調査する.これらについては実験系グループとの連携も進める.
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