研究領域 | シンクロ型LPSO構造の材料科学 ―次世代軽量構造材料への革新的展開― |
研究課題/領域番号 |
23109009
|
研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
大橋 鉄也 北見工業大学, 工学部, 教授 (80312445)
|
研究分担者 |
志澤 一之 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (80211952)
松本 龍介 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80363414)
|
研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 微視組織 / 原子構造 / 強度特性 / 結晶塑性 / 格子欠陥 |
研究概要 |
昨年に引き続き,原子シミュレーションと連続体力学解析を用いてLPSO相に観察される「キンク変形」について検討を進めた. 原子シミュレーションではキンク変形およびキンク界面形成の詳細な過程を調べた.長さが約100nmの四角柱状の10H積層LPSO構造の数値モデルを作成し,不均一な変形開始の起点となる構造をあらかじめ導入したうえで,結晶底面に平行な方向に圧縮荷重を負荷した.その結果,この不均一性をトリガーとして多数の転位が放出されること,一方の界面から放出された転位は他方の界面に吸収されてシャープな界面の形成につながってゆくことなどが明らかになった.そのほか原子シミュレーションでは,メタダイナミクスによって転位ループが形成される現象のシミュレーションを試みた. 連続体力学を基礎とした研究では,LPSO試料の非底面すべりを許容する条件での解析を行った.その結果,変形のごく初期に微細な柱面すべりが生じ,その後底面すべりが帯状の領域に局所化する現象が見られた.また,微細αMg多結晶領域とLPSO粒の領域が並立する試料,LPSO双結晶試料などの圧縮変形を解析したところ,さまざまな初期不均一性をトリガーとしてHess/Barret型のキンクモデルに相当する転位の蓄積構造が形成されまた,多くの場合でくさび状の「キンク」が観察された.微細αMg多結晶領域とLPSO粒の領域が並立する試料では,LPSO粒に大きな圧縮軸方向の垂直応力が発生しており,粗大αMg粒,微細αMg多結晶領域およびLPSO針状粒の混在する微視組織で,LPSO粒が強度の発現に大きな役割を果たしていることが推定された. 回位に関しては,本年度は有限変形偶応力理論を結晶塑性論的に展開し,数理論的な枠組みを構築するとともに,その枠組みの中で用いられる数理的要素に材料工学的な意味づけを行うための基礎的な検討を加えた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子シミュレーションを用いた研究では,LPSO相に導入された不均一性からシャープなキンク構造が形成されてゆく詳細な原子過程が明らかになった.ここでは初期に形成されたdiffuseした転位集団の構造が,変形の進行とともにシャープなキンク界面を形成し,さらにそこからすべり転位が供給されるという興味深い結果が示された.このような転位の運動・蓄積と界面の形成が一連・一体のプロセスとして生ずる現象が「キンク変形」現象であるという理解の可能性を示したことは,大きな研究の一歩となった. 結晶塑性解析では,非底面系すべりの役割,微細α-Mg多結晶相や粗大α-Mg相とLPSO相が微視組織中で隣接して負荷を受ける際の力学過程とキンク変形,くさび形キンクに随伴して蓄積するGN転位の立体的構造,すべりにともなう幾何学的軟化とそれによるキンク模様の形成に関する詳細な検討など,高強度マグネシウム合金の微視組織に生ずる力学現象に関する広範囲な調査が行われた.またこれと並行して,キンク変形場を回位の密度場に抽象化する数理論的な枠組み構築の試みも始められた.これら種々の検討結果は未だ統合されてはいないものの,キンク変形を大きな特徴とするLPSO相を高い体積分率で含む高強度マグネシウム合金の強度が如何にして発現するかを理解するための因子として重要なものであると判断される.
|
今後の研究の推進方策 |
原子シミュレーションを中心としたキンク変形の詳細プロセスの研究をさらに進める.すなわち,面欠陥からの転位射出などによるキンクの発生・発達機構について,今年度より広範な条件(温度,変形条件など)で検討を行う.また,LPSO相における転位の生成と運動に関するさらに詳細な検討を,活性化自由エネルギーの観点から進める. 結晶塑性解析では,すべり系の加工硬化現象とキンク形成,{11-29}双晶とキンク形成との関連の調査など,いくつかの物理的な素因とキンク形成との関連の調査を進める.また高強度LPSO型マグネシウム合金の微視組織中でLPSO相の果たしている役割に関し,定量性のある検討を進めてゆく.さらに,LPSO型マグネシウム合金多結晶のユニットセルモデルを開発し,結晶粒内に発現するミクロなキンク帯がマクロ試験片の変形挙動に及ぼす影響を,均質化結晶塑性解析を用いて調査する. キンクを回位に置き換えることによる力学現象の抽象化についても検討を進め,回位密度を考慮した結晶塑性Cosseratモデルにおいて,流れ偶応力の発展式に対する回転硬化係数の回位密度依存性について検討し,このモデルを用いたキンク帯形成解析を実施する.また,回位密度を導入しない場合の転位-結晶塑性解析の結果と比較する.また回位の多重局子によるキンクの数理的表現についても検討を進めてゆく.
|