研究領域 | 統合的神経機能の制御を標的とした糖鎖の作動原理解明 |
研究課題/領域番号 |
23110002
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
門松 健治 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80204519)
|
キーワード | 糖鎖 / ケラタン硫酸 / コンドロイチン硫酸 / プロテオグリカン |
研究概要 |
神経細胞の発達や、学習・損傷後の可塑性においてプロテオグリカンなどが構成する細胞外微小環境が非常に重要な役割を果たすことが近年分かってきた。しかし神経細胞がどのように糖鎖シグナルを解読するのかについては謎であった。私たちはケラタン硫酸(KS)欠損マウスを作成し、脊髄損傷モデルやin vitro実験によってケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)が重要な軸索再生阻害因子であることを発見した。一方、大脳視覚野において、細胞外微小環境のコンドロイチン硫酸(CS)を分解することにより、通常ならば発達期のみに観察される眼優位可塑性が成体においても獲得できることがこれまでに分かっている。私たちのデータは軸索再生と眼優位性可塑性の2つの制御に細胞外微小環境のKS鎖とCS鎖が独立した必要条件として作用するという新しい概念を示唆している。以上の背景を基に、KS鎖機能ドメインとその受容体の同定を通して、KSPGの作動原理を解明することが本研究の目的である。 本年度、脊髄損傷モデルやin vitro実験によってKSはCSと同等の軸索阻害活性を有することが分かった。すなわち、脊髄損傷後の運動機能回復はKS消化によって促進されるが、この効果はCS消化と同等であり、KS消化とCS消化の組合せは相加・相乗効果を与えることはなかった。In vitroの神経突起伸長阻害の系でも同様の結果であった。このことはKSとCSは同じパスウェイで働くこと、両者は同等でありいずれも必要条件であることを示している。このことからKS、CSの両方の鎖を持つキメラ型プロテオグリカンが軸索再生阻害の本態である可能性が浮かび上がってきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KSとCSは同じパスウェイで働くこと、両者は同等でありいずれも必要条件であることを見出したことは今後の軸索再生阻害機構を解明するうえで大変重要な前提を与える。つまり、このことからKS、CSの両方の鎖を持つキメラ型プロテオグリカンが軸索再生阻害の本態である可能性が出てきた。また、今後眼優位性可塑性の制御機構にアプローチする上でも重要であると考えている。 軸索再生には特に次の3点が重要であると思われる。(1)dystrophic endball:神経損傷部でしばしば見られる軸索末端の構造で空胞様の構造が見られ、膜の動きが盛んであることが予想される。にも拘らず軸索末端は先に延びることはない。(2)神経突起伸長:in vitroで均等にコートしたプロテオグリカン(KS/CSPG)は神経突起伸長を阻害する。(3)接着:in vitroで均等にコートしたプロテオグリカンの濃度が高いと、そもそも神経細胞の接着を阻害する。今後はこれらの項目を注視しながら、KS受容体を同定し、それがどのようなシグナルを伝え、表現型を導くのかを明らかにする必要がある。(1)のin vitroの系は教室でも立ち上げつつあり、(2)(3)の既に立ちあげた手法とともに今後の研究に生かしていく。 若干の紆余曲折はあったが、本研究の目的に照らして、1年目の到達目標は十分にクリアするレベルの達成度であったと評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 軸索再生・分枝阻害に関わるKSPGの同定:ラット生直後大脳から抽出したプロテオグリカンから5D4抗体(KS鎖を認識)のアフィニティークロマトグラフィーによってKSPGを精製し、それを LC-MS/MSで同定する。ここで同定したKSPGについてcDNAクローニング後に全長および幾つかのフラグメントで軸索再生・分枝阻害の活性を確認する。このことによりどのドメインが軸索再生・分枝阻害に必須であるかも同定できる。具体的な活性の評価は従来のシャーレ全面にプロテオグリカンをコートして神経突起伸長をみる方法に加えて、スポットアッセイを用いる。ここではプロテオグリカンのスポットに初代培養した神経細胞の突起が侵入できないが、KS分解酵素によってそれが可能になることが分かる。また、KS鎖が付くアミノ酸残基の変異により阻害活性が失われるかをみる。さらに軸索再生・分枝の停止に際して軸索先端はcollapse, dystrophic endball, growth coneなどの形態をとりうる。 KSPGによってどのような形態が誘導されるかを観察する。 2. KS受容体の同定:上で同定したKSPGおよび阻害活性のあるドメインを用いてKS受容体の同定を行う。これまでに幾つかのCS受容体候補が報告されてきた。それらがKS受容体となりうるのかを含めてファミリーメンバーの解析を行う。 3. 糖鎖機能ドメインの同定:上述のKSPGについてKSの2糖分析を行う。また、脊髄損傷モデルやALSモデルなどの KSの2糖分析を行う。これらの情報を総合的に解析し、生体内でKS鎖上のどのようなKS構造が軸索再生・分枝阻害に働くかを推定する。一方、KSオリゴ糖の合成を行い、神経突起伸長などを指標にした糖鎖機能ドメイン同定のための準備を行う。
|