研究概要 |
昨年度、眼優位性可塑性において、特に幼弱期(感受性期)においてKS欠損マウスで非遮蔽眼(同側)の反応性増大が起きないことを見出した。その本態となるLTPがT型カルシウムチャンネル依存性のものであることを明らかにした。さらに、この眼優位性可塑性の変化に関与するKSは低硫酸化KSであることが分かった。というのも低硫酸化KS特異的な抗体R10Gによって認識される低硫酸化KSがKS欠損マウスで減少が見られるのみならず、組織分布が脳間質に存在することが明らかになったためである。また、昨年度は軸索再生の阻害の責任分子として、フォスファカンを同定した。活性化したアストログリアにフォスファカンから産生され、精製したフォスファカンは軸索伸長阻害活性を示した。本年度は中枢神経の損傷軸索の特徴であるdystrophic endballとKS, CSおよびそれらの受容体の関係の解明を目標にした。フォスファカンはKSとCSの両方の糖鎖を有するプロテオグリカン(KS/CSPG)であるが、その濃度勾配を持たせたコーティングを施した基質上で後根神経節神経の軸索はdystrophic endballを形成した。KS, CS消化でこのdystrophic endball誘導はなくなった。また、KSの硫酸化の程度によらずフォスファカンは軸索伸長を阻害した。さらにdystrophic endballの内部ではオートファジーが盛んに起こることを明らかにした。そして、CS受容体であるPTPsigmaがフォスファカンと結合することも判明した。以上から、フォスファカン→PTPsigma→オートファジー→dystrophic endballという作用機構の仮説を想定することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞がどのように糖鎖シグナルを解読するのかについて、ケラタン硫酸(KS)を中心に解析を行っている。特に、神経軸索再生と眼優位性神経可塑性を研究の標的として、KS鎖機能ドメインとその受容体の同定を通して、KSPGの作動原理を解明することが本研究の目的である。その目的達成に近づきつつある。来年度は具体的に以下を課題として前進したい。 1. フォスファカンあるいはKS, CSと受容体:フォスファカンとPTPsigma, LARの結合の様式(1対1~多 対 多までいろいろな様式が想定される)を明らかにする。同様にKS, CSとPTPsigma, LARの結合の様式を明らかにする。さらにPTPsigma, LARの中のKS, CS結合ドメインを同定する。これらの解析によって糖鎖がどのように受容体と結合して機能するのかを解き明かす。さらに、PTPsigma, LARからのシグナルがオートファジーあるいはdystrophic endballに必要条件あるいは十分条件となるかを解析する。 2. オートファジーとdystrophic endball:オートファジーはdystrophic endballに付随する現象である可能性と、dystrophic endball形成に必要である可能性の検証を行う。また、はdystrophic endball形成には他にも微小管の乱れや細胞・基質間接着の弱化などの機構を想定できる。その意味で、オートファジー、微小管、細胞接着の間の相互関係を解析することも重要である。 3. 眼優位性可塑性とLTP: KSの分布についてアストログリアやシナプスとの関係を中心に詳細な解析を進める。
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