計画研究
コンドロイチン硫酸(CS)は、グルクロン酸とN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)の二糖が数十回交互に繰り返し重合した直鎖状の糖鎖を基本骨格にもつ。生合成過程でGalNAc残基の大部分は、その6位もしくは4位が、コンドロイチン6-O-硫酸基転移酵素(C6ST-1)もしくは4-O-硫酸基転移酵素によって硫酸化される。我々は以前、脳の発生に伴うCS鎖の硫酸化パターンの変動を解析したところ、6硫酸化CSは発生初期に多く存在し発生に伴い減少するが、4硫酸化CSは発生に伴い増加し、結果として6硫酸化CSに対する4硫酸化CSの比率(4S/6S比)が顕著に増加することを見出していた。そこで昨年度、全身でC6ST-1を過剰発現するトランスジェニック(TG)マウスを作成した。成体の野生型マウス視覚野では、ほとんどのパルブアルブミン陽性抑制性神経細胞がWFAレクチン陽性のペリニューロナルネット(PNN)によって覆われるが、C6ST-1 TGマウスでは、WFA陽性のPNN数が減少していた。さらに、C6ST-1 TGマウスは成体でも、眼優位性の可塑性を維持していた。そこで本年度は、子宮内エレクトロポレーション法により、マウスの特定の神経細胞でCSの硫酸化構造を改変し、どの神経細胞のCSが眼優位性の可塑性に重要であるかを解明した。その結果、抑制性神経細胞でC6ST-1遺伝子を発現させると、WFA陰性となり、その代わりにCS56と呼ばれる6硫酸化CSに対する抗体で強く染色されるPNNが形成された。また、このCS56陽性のPNNをもつ抑制性神経細胞は、WFA陽性のPNNをもつ抑制性神経細胞に比べ電気生理学的に未成熟であることも分かった。さらに、CS56陽性のPNNをもつ抑制性神経細胞は、抑制性神経細胞の成熟に必要なホメオタンパク質Otx2の蓄積が低下していた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、昨年度の結果に基づき、コンドロイチン硫酸の硫酸化構造がどのように神経可塑性を制御しているのかを解析してきた。その鍵となる分子を見出したが、まだ論文報告に至っていない。来年度は、論文として報告できるよう誠意努力したい。
コンドロイチン硫酸(CS)の硫酸化構造が変化したマウスでは、通常臨界期が終了している成獣でも高い眼優位可塑性を示すことを昨年度に見出した。眼優位可塑性には、抑制性神経回路の重要性が示されているので、抑制性神経細胞の成熟程度により、CSの硫酸化構造が変動する可能性がある。そこで、本年度に引き続き抑制性神経細胞周囲のマトリクス環境の変化が、どのように抑制性神経細胞の機能に影響を及ぼすかを今後も検討する。本年度、硫酸化構造依存的にCSPGと結合し、抑制性神経細胞の機能を制御する分子として、ホメオタンパク質Otx2を見出した。我々は既に、C6ST-1 を高発現するマウスでは、抑制性神経細胞におけるOtx2の取り込みが減少していることを示しているので、硫酸化構造の異なる合成CSオリゴ糖を用い、CSがOtx2の取り込みにどのように影響するのかを検証する。また、神経突起伸長の制御に関与するCS機能ドメインの解明も行い、CS鎖による神経活動の制御機構を明らかにしていく。
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http://www.kobepharma-u.ac.jp/~biochem/
http://shinkei-tosa.net/