計画研究
コンドロイチン硫酸(CS)は直鎖状の多糖で、特定のコアタンパク質のセリン残基に共有結合したプロテオグリカンとして、脳の神経細胞表面や細胞外マトリックスに豊富に存在する。中枢神経系の損傷時にグリア細胞から分泌されるCSは、神経突起伸長を阻害することで神経機能の回復を妨げる因子として同定されている。しかし、CSは神経突起伸長が活発な胎生期の脳にも発現しており、CSの神経細胞への影響は阻害作用に限らない。そこで本年度は、神経発生におけるCSの機能をin vivoで解析した。胎生期の大脳皮質において、脳室帯と中間帯にはGalNAcの4位が硫酸化されたCSが、そして皮質板には硫酸化されていないコンドロイチンが局在していることを見出した。興味深いことにGalNAcの4位が硫酸化されたCSとその構造を合成するコンドロイチン4-O-硫酸基転移酵素-1の発現パターンには、正の相関性が観察された。そこで、子宮内エレクトロポレーション法により、コンドロイチン4-O-硫酸基転移酵素-1の発現を低下させたところ、神経細胞が皮質板まで到達できず中間帯に留まった。正常な神経細胞は皮質板へ移動する際に、多極性から双極性へ形態変化するが、4位が硫酸化されたCSの発現低下細胞は多極性の形態を保っていた。分散培養した神経細胞においても、4位が硫酸化されたCSは神経細胞の極性形成に必要であった。これらの結果から、神経細胞自身が合成する4位が硫酸化されたCSによってつくられる微小環境は、神経細胞の極性形成と正常な大脳皮質の発生に必要であることが示された。また、糖鎖の化学合成に関しては、ビオチン化CS-D型四糖の化学合成も進めた。繰り返し二糖の合成経路は前年度までに完成し、今回二糖間の縮合に成功した。位置特異的な硫酸化も収率よく進行し、保護基の除去とビオチン化を残すまでになっている。
2: おおむね順調に進展している
今回の研究により、神経細胞自身が合成するGalNAcの4位が硫酸化されたコンドロイチン硫酸が神経細胞の極性形成に必要であることが示されたので、今後化学合成オリゴ糖を用いた受容体の同定ならびに受容体に結合する糖鎖機能ドメインの同定が可能になるものと考えられるため。
今後は、神経細胞自身が合成するGalNAcの4位が硫酸化されたコンドロイチン硫酸がどのようなプロテオグリカンとして合成されているのか、そして4位が硫酸化されたコンドロイチン硫酸に結合する受容体が何であるのかを明らかにする。また、その受容体分子が同定されれば、化学合成コンドロイチン硫酸オリゴ糖との結合性についても詳細に調べ、相互作用に必要なコンドロイチン硫酸の最小機能ドメインを決定する。また最近、コンドロイチン硫酸などの合成制御機構が破綻したEXTL2 遺伝子欠損マウスの脳ではコンドロイチン硫酸が増加し、コンドロイチン硫酸機能ドメインが質的あるいは量的に変化していることを見出している。この合成異常が神経細胞の発生に与える影響を調べた結果、成体脳全域に渡って、抑制性神経細胞(parvalbumin陽性神経細胞とsomatostatin陽性神経細胞)が増加していた。今後は、抑制性神経細胞の増加原因を調べ、抑制性神経細胞の増加が興奮/抑制バランス異常を起こしていること、そしてそれにより起こる行動異常について解析する。
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