研究領域 | 統合的神経機能の制御を標的とした糖鎖の作動原理解明 |
研究課題/領域番号 |
23110004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小松 由紀夫 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (90135343)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 糖鎖 / 可塑性 / 視覚野 / コンドロイチン硫酸 / 長期増強 / ケラタン硫酸 |
研究実績の概要 |
視覚野のパルブアルブミン陽性細胞を取り囲むペリニューロナル・ネット(PNN)は感受性期の制御に関与すると考えられている。その主要な構成分子であるコンドロイチン硫酸(CS)鎖の6位の硫酸化(6S)を担う硫酸転移酵素を過剰発現させたマウス(C6ST-1 TG)を用いた昨年度の研究により、硫酸化パターンの6S優位から4S優位への変化が眼優位可塑性の感受性期の終了を制御することが分かった。このTGマウスでは感受性期が延長し、成長しても感受性期型の眼優位可塑性が見られた。本年度は、眼優位可塑性の可塑的変化の基盤と考えられるシナプス可塑性のC6ST-1 TGと野生型マウスとの間での相違を調べた。野生型マウスの2/3層から記録した細胞外電位の解析により、2Hz刺激を15分間与えると、ラットと異なり、感受性期だけでなく成長期でも長期増強が起こることが分かった。野生型マウスにおける感受性期の長期増強はラットの場合と同様に Niで誘発が阻害されT 型Caチャネル依存性長期増強(T-LTP)であることが分かった。また、成長期の長期増強の誘発はT型Caチャネルではなく、L型Caチャネルに依存することが判明した。これに対して、C6ST-1 TGマウスでは、感受性期、成長期の両時期においてT-LTPが同様に起こった。これが、C6ST-1 TGでは成長しても感受性期と同様な眼優位可塑性が持続する理由と考えられる。 ケラタン硫酸(KS)もPNNを構成する分子であるので、KS欠損マウスを解析したところ、感受性期の眼優位可塑性に異常があることが分かった。片眼遮蔽による遮蔽眼刺激に対する視覚応答の減弱は野生型マウスと同様に起きたが、非遮蔽眼刺激に対する視覚応答の増強は見られなかった。この結果は、KS欠損マウスではT-LTPが障害されている可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コンドロイチン硫酸の硫酸化パターンの変化が感受性期を制御することが昨年度の研究により判明したが、本年度の研究では、T 型Caチャネル依存性長期増強が硫酸化パターンの制御を受けることを明らかにすることが出来た。また、ケラタン硫酸も眼優位可塑性の制御に関与することが分かった。コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸による可塑性の制御には明らかな相違があるので、これらのコンドロイチン硫酸とケラタン硫酸の遺伝子改変マウスは糖鎖による視覚野可塑性の制御機構を解析する有力な標本であることが分かった。この標本を利用することにより、今後の解析が計画に近い形で進めることが出来ると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
コンドロイチン硫酸だけでなくケラタン硫酸も感受性期の視覚反応可塑性の制御に重要な役割を果たすことが分かった。しかも、両者の役割は異なるので、両者の遺伝子改変動物を使い、シナプス可塑性がどのように制御されているかを明らかにする。この解析を通して、糖鎖による視覚野可塑性の制御を、細胞・分子のレベルで解明することを目指す。
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