研究領域 | 統合的神経機能の制御を標的とした糖鎖の作動原理解明 |
研究課題/領域番号 |
23110005
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
戸島 拓郎 独立行政法人理化学研究所, 神経成長機構研究チーム, 研究員 (00373332)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コンドロイチン硫酸 / 軸索ガイダンス / 成長円錐 / cAMP |
研究実績の概要 |
成体中枢神経組織の損傷部位には長大な糖鎖とコアタンパク質からなるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)が沈着し、これにより損傷軸索は再生できない。古くには、CS糖鎖が物理障壁となって軸索再生を阻害するとの考えが主流であったが、最近になって、CS受容体としてPTPsigma、LAR、CNTN1等が次々に同定され、「糖鎖がリガンドとして受容体を活性化する」という新しい糖鎖の作用機序が注目されている。しかし、糖鎖受容体下流のシグナル伝達については不明である。興味深いことに、CS糖鎖は培養下で軸索伸長作用を持つとの報告もあるため、発生組織においてCS糖鎖が両方向性の軸索ガイダンス因子としても機能する可能性がある。本課題では、軸索再生阻害や軸索ガイダンスに必要十分な糖鎖基本構造(糖鎖機能ドメイン)を決定し、これらが引き起こす一連の細胞内シグナル伝達経路を同定することを目標としている。 CS糖鎖はグルクロン酸(GlcA)とN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)の2糖繰り返し構造から成り、その硫酸化パターンの違いにより分類される。CS-AはGalNAcの4位、CS-CはGalNAcの6位、CS-DはGlcAの2位とGalNAcの6位、CS-EはGalNAcの4位と6位が硫酸化されている。これら硫酸化構造の異なる様々なCS糖鎖は、糖鎖機能ドメインの有力候補と考えられたため、本年度は、微細ガラス管からのpressure ejectionにより培養下においてCS-Eの濃度勾配を作製し、これに対する成長円錐の応答性を解析した。その結果、CS-Eは培養条件の違いによって成長円錐を誘引または反発する活性を持つ、両方向性の軸索ガイダンス因子として働くことが明らかになった。さらに、このCS-Eに対する誘引/反発の切り替えが、細胞内cAMP濃度に依存して決定されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請書に記載したテーマ1の「糖鎖濃度勾配による軸索伸長阻害の分子メカニズム」に関しては、特にCS-Eに関して研究が大きく進展し、CS-Eが両方向性の軸索ガイダンス因子として働きうること、CS-Eに対する成長円錐の応答性の切替えが細胞接着分子や細胞内cAMPシグナルによって決定されることなど、次年度以降に向けての重要な知見が明らかになった。テーマ2の「動物個体レベルでの軸索再生実験」においては想定通りの結果が得られ、この結果を記載した論文を現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には今後も研究計画書どおりに研究を遂行して行く予定である。本年度の研究により、CS-Eが両方向性の軸索ガイダンス因子として働くことが明らかになったため、今後は、成長円錐の誘引・反発という正反対の現象のそれぞれを担うCS-E受容体を同定することを目標とする。具体的には、最近CS受容体として同定されたPTPsigma、LAR、CNTN1等を第一候補として検証する。さらに、CS-Eに対する成長円錐の応答性(誘引/反発)を決定するために、これらCS-E受容体が形質膜上において機能発現するメカニズムについて解析を進める。続いて、様々な鎖長の合成CS-Eを成長円錐に作用させ、誘引性・反発性軸索ガイダンス因子として働きうるCS-E最短鎖長(最小糖鎖機能ドメイン)を決定する。その上で、最短鎖長のCS-Eが受容体を活性化するメカニズムについて解析して行く。
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