計画研究
糖鎖は神経の様々な機能に重要な役割を果たしていると想像されているが、まだまだ未知の部分が多く残っている。タンパク質や脂質に結合している糖鎖の大部分はゴルジ体で結合することから、ゴルジ体での糖鎖修飾は神経機能にとって極めて重要であることが推測される。特に、軸索伸長のように大規模に新規の糖タンパク質・糖脂質合成が行われるときには、ゴルジ体内での糖鎖修飾能力が大いに必要になる。実際、伸長しつつある軸索の基部には発達したゴルジ体が観察される。研究代表者は本研究課題において、細胞がどのようにしてゴルジ体での糖鎖修飾能力を強化して、神経機能を支持しているのか、その分子機構(ゴルジ体ストレス応答)を研究している。前年度までの研究によってゴルジ体ストレス応答の応答経路であるTFE3経路の中心的制御因子TFE3の活性化機構を明らかにした。しかしながら、TFE3経路はゴルジ体におけるN型糖鎖の修飾酵素の発現強化には関与しているが、ゴルジ体で起こるその他の糖鎖修飾酵素の発現制御には関与していないことがわかった。そこで本年度は、プロテオグリカン型糖鎖修飾酵素(NDST2, HS6ST1, CSGALNACT2)やムチン型糖鎖修飾酵素(GALNT18)、グリコスフィンゴリピッド型糖鎖修飾酵素(UGCG)の発現を制御する応答経路(プロテオグリカン経路、ムチン経路、グリコスフィンゴリピッド経路)の解析を行った。その結果、上記の糖鎖修飾酵素遺伝子の発現がゴルジ体での当該の糖鎖修飾能力が不足した時(ゴルジ体ストレス時)に誘導されること、またその発現誘導にTFE3経路は関与していないことがわかった。それぞれの遺伝子のプロモーター領域を単離してプロモーター解析を行ったところ、それぞれのプロモーター上にゴルジ体ストレスによる転写誘導を制御するエンハンサー配列が存在することを見出した。今後は転写因子を同定する。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は、ゴルジ体ストレス応答(ゴルジ体での糖鎖修飾能力が不足した時に、糖鎖修飾酵素の発現を誘導することで、糖鎖修飾能力を強化する機構)の分子機構を明らかにするとともに、ゴルジ体ストレス応答がどのようにして神経機能に貢献しているかを解明するものである。本年度までの研究によって、これまで全く未知であったゴルジ体ストレス応答の応答経路が次々と明らかとなり、またその分子機構も解明しつつある。特に大きな成果は、ゴルジ体での複雑な糖鎖修飾系のそれぞれが別々の応答経路で制御されていることが明らかとなったことである。それぞれの応答経路を見出すことで、それぞれの応答経路の分子機構を解析することが可能になった。この成果の端緒となったのは、個別の糖鎖修飾経路だけを阻害し、特定のゴルジ体ストレス応答経路だけを活性化する方法を確立したことである。今後、それぞれの応答経路について分子機構を明らかにしていくことによって、ゴルジ体ストレス応答の全体像を明らかにすることが可能であると考えている。また、本年度の実験からアストロサイトの分化過程においてTFE3経路だけではなく、プロテオグリカン経路も活性化され、実際にプロテオグリカンの産生が上昇することを見出した。アストロサイトから分泌されるプロテオグリカンは、神経軸索の伸長を特異的に制御するシグナルとして機能していることが知られており、ゴルジ体ストレス応答はこのような神経系の細胞の機能を支持する重要なインフラストラクチャーとして機能していることが明らかとなりつつある。今後、プロテオグリカン経路の分子機構が明らかとなれば、その制御因子の発現を人工的に制御することで、プロテオグリカン経路がアストロサイトの機能にどのような役割を果たしているか直接的に調べることが可能になる。このように、本研究課題は、当初の計画通り概ね順調に進展していると考える。
プロテオグリカン経路やムチン経路、グリコスフィンゴリピッド経路のエンハンサー配列のコンセンサス配列を同定し、そこに結合して転写を制御する転写因子を、酵母one hybrid法によって単離する。単離した転写因子の活性制御機構を解析し、その活性制御因子を同定する。このように、ゴルジ体ストレス応答経路の下流から上流に向かった順次活性制御因子を同定していくことによって、最終的にはゴルジ体ストレスを感知するセンサー分子から転写因子の活性化に至るシグナル経路を解明する。また、ゴルジ体内のどのような分子的変化がそれぞれのゴルジ体ストレス応答経路を活性化するのか、またセンサー分子がどのようにしてゴルジ体ストレスを感知するのかを明らかにする。まだ同時に、同定した制御因子の発現を抑制したときに神経系の細胞の機能にどのような変化が起こるか調べる。具体的には、アストロサイトの分化時に、プロテオグリカンの産生にどのような影響が生じるか解析する。最終的には、それぞれの制御因子のノックアウトマウスを作製し、神経機能にどのような影響が生じるかを多面的に解析する。正常時の脳機能ばかりではなく、神経変性疾患のモデルマウスと掛け合わせることで、神経変性疾患との関わりを調べる。また、アストロサイトから分泌されるプロテオグリカンは、脊髄損傷時の神経再生を阻害することが知られていることから、プロテオグリカン経路を遮断することで、神経再生にどのような影響が見られるか解析する。一方、グリコスフィンゴリピッドは脳神経に多量に存在し、その機能に重要であると考えられているが、具体的なことはよくわかっていない。そこで、グリコスフィンゴリピッド経路についてもプロテオグリカン経路と同様の解析を進め、グリコスフィンゴリピッドの糖鎖修飾と脳神経機能との関係を明らかにする計画である。ムチン経路に関しても同様の計画である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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