ゴルジ体ストレス応答は、細胞の需要に応じてゴルジ体の機能を強化する恒常性維持機構である。ゴルジ体は神経細胞の機能発現にきわめて重要であり、神経細胞ではゴルジ体は非常に発達していることから、ゴルジ体ストレス応答も神経細胞の機能に大きく貢献していると考えられる。前年度までに、ゴルジ体ストレス応答の4つの応答経路を同定し、そのなかでもTFE3経路の分子機構を明らかにしてきた。また、残りの3つの応答経路(プロテオグリカン経路とムチン経路、グリコスフィンゴリピッド経路)に関しては、それぞれの応答経路によって転写が制御される標的遺伝子のプロモーターを単離した。
今年度は、これらのプロモーターを解析し、転写誘導を制御するエンハンサー配列の同定を試みた。その結果、プロテオグリカン経路に関しては、複数の標的遺伝子の転写誘導を共通に制御するエンハンサー配列(GGGCGG様配列)を同定し、PGRE(proteoglycan pathway response element)と命名した。ムチン経路やグリコスフィンゴリピッド経路に関しても、エンハンサーの同定を進めている。プロテオグリカン経路に関しては、PGRE配列をプローブとして、one hybrid法による転写誘導を制御する転写因子の同定を開始した。また、興味深いことにムチン経路によってTFE3経路の転写因子であるTFE3の転写が誘導され、またTFE3自体が活性化されることも見出した。このことは、TFE3経路とムチン経路がクロストークしていることを示している。今後は、これらの応答経路に関して転写制御配列と転写制御因子、更にはセンサー分子を同定し、ゴルジ体ストレスの感知から転写因子の活性化に至る細胞内情報伝達経路を明らかにすることでゴルジ体ストレス応答の分子機構を明らかにするとともに、同定した制御因子のノックアウトマウスを作製し、ゴルジ体ストレス応答の個体における生理的意義を明らかにしたい。
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