研究領域 | 統合的神経機能の制御を標的とした糖鎖の作動原理解明 |
研究課題/領域番号 |
23110008
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古川 鋼一 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80211530)
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研究分担者 |
鈴木 健一 京都大学, 物質ー細胞統合システム拠点, 准教授 (50423059)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ガングリオシド / ノックアウト / 記憶学習 / LTP / アストロサイト / シナプス可塑性 |
研究実績の概要 |
神経系組織の健常性維持におけるガングリオシドの作用機構の解明のために、ガングリオシド欠損マウスの異常表現型のメカニズムの解析を行い、興味ある結果が得られた。 GM2/GD2合成酵素の雄ノックアウト(GM2/GD2S KO)では、モリス水迷路試験やステップダウンテストにおいて記憶・学習能の低下が認められた。海馬スライスを用いた各周波数のLTPでは、100-200 Hz刺激でNMDA受容体依存性LTPが誘導されなかったが、20-50Hzの中間的周波数刺激ではNMDA受容体非依存性のLTPが誘導された。これらの結果とスライスにGM1を添加したときの反応変化等から、b-系列ガングリオシドの欠損がNMDA受容体依存性LTPの抑制による認知機能の障害を招くこと、a-系列ガングリオシドの欠損が前シナプス性グルタミン酸放出の亢進によって、NMDA受容体非依存性のLTPを促進することが示唆された。 p53欠損マウス由来の初代培養アストロサイトにPDGFBを導入して複合型ガングリオシドが高発現する細胞群と低発現細胞を分離したところ、高発現細胞でST8Sia1の著明な発現亢進を認めるとともに、PDGF受容体alphaの著明な発現亢進を認めた。GD3合成酵素の発現が腫瘍形質の増強に働く具体的なメカニズムの一つが示された。 GD3合成酵素欠損マウスはb-系列ガングリオシドを欠損するにもかかわらず重篤な症状を認めなかったが、損傷神経の再生の遅延が認められた。本マウスで血中のレプチンレベルが著明に低下していた点に着目して検討した結果、脂肪組織からのレプチン分泌がb-系列ガングリオシドの欠損で障害されたことが分かった。しかし低レプチン血症にもかかわらず肥満を呈さないことから、標的組織である視床下部でのレプチンシグナルの代償的な亢進が予想され、現在、視床下部ニューロンの機能を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸性スフィンゴ糖脂質、ガングリオシドの脳神経系における機能の解明において重要と考えられるシナプス可塑性の解析を、LTP(long-term potentiation)の検討によってアプローチして、ガングリオシド糖鎖の違いによる分別的な機能など興味ある結果が得られた。また、神経系の細胞膜上でガングリオシドと相互作用する膜分子の同定を試みて、脳腫瘍で過剰発現が見られるPDGF受容体alpha が同定され、さらにガングリオシドGD3との相互作用が示唆されたことは、糖脂質によるシグナル調節の機構解明の端緒となるものと期待される。また、血中レプチンの低下に対して脳神経系におけるホルモンシグナルの受容能の変化が予想され、ガングリオシドのシステミックな調節機能の解明に繋がることが期待される。これらの成果により、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
シナプス可塑性におけるガングリオシド機能の解明という課題に関しては、b-系列ガングリオシドを欠損するGD3合成酵素KOマウスを用いた行動異常の解析とLTPの検討を開始している。 グリアにおけるガングリオシドの細胞増殖、腫瘍形質における役割に関して、マウスのグリオーマモデルを樹立して、ジシアリルガングリオシドの関与を中心に、in vitro、in vivoの解析を進める。ヒトグリオーマ細胞も用いて、ガングリオシド近傍の膜分子の同定とその機能解析を推進する。また、マウスグリオーマに関しては、ガングリオシド欠損マウスを用いた腫瘍モデルの実験を行い、geneticな手法でガングリオシドの役割を解明する。 レプチンの視床下部弓状核における受容体(ObRb)を介するシグナルの検討を行い、ガングリオシドによるシグナル調節の機構と脂肪組織の制御の可能性を明らかにする。
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