研究実績の概要 |
本研究では筋萎縮性側索硬化症(ALS)を病態モデルシステムとして、神経変性に対する生体応答の主役としてのグリア細胞による変性神経細胞の認識機構や生体応答機構の解明を目指す。 自然免疫関連遺伝子であるTRIF依存性のToll様受容体経路の神経変性における役割を検討し、変性ニューロン、グリア細胞の認識、応答経路を探索した。TRIFを欠損したALSマウスでは、疾患進行が著しく加速し、脊髄への免疫細胞の浸潤が著明に減少するとともに、異常な形態を呈し、Nox2の発現が上昇したアストロサイトが病巣に蓄積していることを見いだした。これらの結果から、TRIF経路はALSにおけるアストロサイトの恒常性維持に重要であることが示唆された。また、ALSマウス、患者のアストロサイトで過剰産生される抑制性サイトカインTGF-β1は、病勢増悪因子であることを見いだし、TGF-βシグナル阻害剤の投与によりALSマウスの生存期間を延長させることを見いだした。 ALSにおける運動ニューロン(MN)のサブタイプ選択性変性でのオステオポンチン(OPN)の役割を解析した。OPNは、ALSにおいて変性抵抗性の赤筋(FR/S)タイプMNで特異的発現が見られたが、これはALSで脆弱とされる白筋(FF)タイプMNでのMMP-9の高発現とは対照的であった。ALS発症前及び発症期において, 野生型マウスではほとんど観察されないOPN及びMMP-9共陽性のMN(ダブルポジティブMN)が観察された。このダブルポジティブMNでは, OPNが自己受容体 (αvβ3 インテグリン) にオートクライン作用をもたらし、MMP-9の発現上昇を介したERストレス上昇を誘導することで、MNの脆弱性を高めることを見い出した。この結果から、ALSにおける第2波神経変性にOPNが関与することが示された。
|