研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
23111007
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木山 博資 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00192021)
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研究分担者 |
桐生 寿美子(瀬尾寿美子) 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70311529)
小西 博之 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90448746)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 運動ニューロン / グリア / 軸索再生 / 神経損傷 |
研究実績の概要 |
以前我々が同定したDINE(ECEL1)という膜一回貫通型プロテアーゼは神経特異的に発現しており、ノックアウトすると神経筋接合部(NMJ)の形成が極度に低下する。このプロテアーゼの酵素活性がNMJの形成に必要かどうかを検討するために酵素活性を欠失した変異型DINEのトランスジェニックマウスを作成し、ノックアウトマウスと交配した。野生型ではNMJ形成が回復したが変異型では回復しなかった。このことからDINEの酵素活性がNMJ形成に必要であることが明らかになった。また、DINEの酵素活性が周辺のシュワン細胞の分化に影響を与えることも明らかになった。このことからDINEは神経膜上に存在し、軸索とシュワン細胞のインターラクションに重要な機能を有していることが明らかになりつつある。また、損傷神経とミクログリアとの間のインターラクションに関与する分子の探索で得られた分子の機能解析をノックアウト動物を用いて進めており、免疫系のITAM関連分子が損傷運動神経の生存にとってネガティブな作用をしていることが明らかになった。このことは損傷神経とミクログリアの間にはポジティブな情報交換とネガティブな情報交換の両者が同時に行なわれていることを示唆する。 本研究で得られた損傷神経特異的にCreとミトコンドリア標識GFPを発現するマウスを用いて、ミトコンドリアの分裂を制御するDrp1のFloxマウスとの交配を行なった。その結果、損傷神経ではミトコンドリアの分裂が促進した。また、ミトコンドリアの分裂が抑制されると細胞体内に巨大なミトコンドリアが出現し、損傷神経細胞は細胞死に至ることが明らかになった。この成果は投稿準備中である。この他この神経損傷特異的Cre 発現マウスを用いて他の研究班が所有するFloxマウスとの交配も進行しており、共同研究の成果が出つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.運動神経とシュワン細胞間の新たなインターラクションの解明:発生の過程で運動神経が骨格筋と神経筋接合部(NMJ)を形成する時に、運動神経の膜上に発現する膜一回貫通型プロテアーゼDINEの機能が見えて来た。26年度の研究によりNMJの形成にはDINEの酵素活性が必要であることが明らかになった。この酵素活性は運動ニューロンとシュワン細胞のインターラクションに関わっていることがin vitroの実験で明らかになりつつある。このことから、当初の目的である神経細胞とシュワン細胞間のプロテアーゼを介する新たな細胞間シグナリングの存在が明らかとなり、そのメカニズムを解析中である。 2.損傷運動神経とミクログリア間の新たなインターラクションの解明:損傷神経が再生する過程で周辺に存在するミクログリアとのネガティブな細胞間シグナリングの存在が明らかになった。損傷神経が再生する過程で周辺のミクログリアから損傷神経に発信されるネガティブシグナルのうち、炎症性サイトカイン以外に新た系の存在が明らかになり、細胞死を加速することが明らかになった。 3.本研究を進めるにあたり開発中のトランスジェニックマウスによる成果:神経細胞の側で神経損傷特異的にCreを発現するトランスジェニックマウスを応用した成果が得られた(投稿中)。また、これを用いて領域の他の班との共同研究も進行しており、成果が得られつつある。 以上により本研究は平成26年度末時点において、概ね当初の目的計画に沿って研究が順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
26年度までの研究進捗を受け概ね予定どおりに研究を遂行する。26年度までに入手した遺伝子改変動物を用いた研究の成果が得られはじめており、神経-ミクログリア間、神経-シュワン細胞間の新しいメディエーターが明らかになりつつある。27年度は最終年度でもあり、これらの成果の追加データの取得やとりまとめを中心に進める。また、本研究で得られた、損傷神経特異的なCre発現トランスジェニックマウスは今後の本領域の研究にきわめて有効なツールであり、これを用いて出来る研究の可能性を広げるよう多くの共同研究に取組みたい。以上の成果を有機的に繋ぐことにより、脳内あるいは末梢で運動神経を取巻くグリアが作り出す環境が損傷運動神経の生存や再生に及ぼす影響を明らかにしたい。
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