研究実績の概要 |
本新学術領域の目的は「上皮管腔組織の形成・維持と破綻の分子機構を明らかにする」ことである。上皮管腔組織は「非極性化上皮細胞集団が間質へ肥厚し伸長と分岐を繰り返した後に極性化して管腔構造を構築する形式」と「極性化上皮細胞が内腔を有したまま伸長し分岐する形式」といった二つの異なった形式によって形成されると考えられる。ところが、それら上皮管腔組織を構成する個々の上皮細胞を見てみると、それらの分化・成熟の機序には類似点が多いことがわかる。すなわち、どちらの形式であっても上皮管腔組織が形作られるためには、まず、組織幹細胞から上皮細胞が分化し、それらが機能的かつ形態的に成熟する必要がある。そこで本研究では、二種類の管腔形成における共通の分子基盤と相違を理解するために、管腔組織を形成する上皮細胞の供給源である組織幹細胞に着目し、その維持や上皮細胞への分化決定を制御する分子機構を明らかにする。 本研究では、発生段階の肝臓の組織幹細胞である肝芽細胞に着目して研究を進めてきた。平成27年度では、マイクロRNA 制御タンパク質として知られるLin28bが、マイクロRNA のlet-7b 並びにmiR-125a/bの成熟化を阻害し、相互抑制的フィードバック作用を介してLin28b自身の発現を維持するとともに、肝芽細胞の幹細胞性(増殖能や分化能)の維持において重要な役割を果たしていることが明らかとなった(Takashima et al., Hepatology, in press)。興味深いことに、肝芽細胞におけるLin28bの機能阻害は、肝芽細胞の増殖を抑制するだけでなく、肝臓内で管腔構造を形成する胆管上皮細胞への分化決定を促進することが判明した。以上の結果から、本研究では、肝臓における組織幹細胞の維持や分化決定を制御する分子機構の理解が大きく進んだといえる。
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