研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
23112003
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
大野 茂男 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10142027)
|
キーワード | 癌 / 再生医学 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / 発生・分化 |
研究概要 |
組織幹前駆細胞の濃縮及び同定技術、単離細胞から上皮管腔組織を構築する実験系などが最も確立している乳腺組織をモデルとして、「組織幹前駆細胞の自己更新と非対称分裂の分子機構」、「前駆細胞の増殖と分化の分子機構」、「乳腺上皮管腔組織の破綻と乳がん幹細胞との関係」などを明らかにする目的で、aPKCラムダのcKOマウスで見いだした乳管上皮細胞の過形成の詳細の解析を進めた。その結果以下の事を明らかとした。この異常は性成熟期を過ぎて始めてみられ、乳腺上皮細胞の異常増殖によるものである。細胞レベルでは、乳がんを含むがん幹細胞のマーカーとして知られているALDH1陽性の細胞が、異常に増加している。これまでALDH陽性細胞がマウスの乳腺組織のどのような細胞集団に対応するか不明であった。これまでに研究の集積のある乳腺幹細胞、乳腺管腔前駆細胞についてはマーカーがあるのでこれらを利用し、細胞移植による乳腺組織幹細胞の同定系、試験管内でのスフィア形成系などを用いて、ALDH陽性細胞が管腔前駆細胞に対応する事を見いだした。実際、様々な実験系でaPKCラムダのcKOマウスでは、管腔前駆細胞の異常増殖が起きている事を確認した。これらの事は、aPKCラムダが乳腺管腔前駆細胞の増殖の制御を行っている事。さらに、これを通じて乳腺組織の維持に大切な役割を果たしていることを示している。aPKCラムダのcKOマウスにおける乳腺管腔前駆細胞の増殖の異常の背景にある分子機構の解析を進め、ErbB2の異常高発現が起きている事を見いだした。これらの結果から、マウスの性成熟後の乳腺組織にける管腔前駆細胞の増殖を制御する新たな機構の存在が浮かび上がってきた。ここではaPKCがErbB2の発現を抑制する事により、増殖を負に制御している。さらに、同様の機構がヒト乳腺上皮細胞株MCF10Aにおいても見られることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性成熟後の乳腺組織前駆細胞の維持機構に関して、新たな展開が得られている。さらに、幹細胞に関しては、既存のCreマウスを用いた限り、同様の実験で表現型をみることができないが、これが、aPKCが関わっていないことを示すものか、或いは幹細胞ではCreが発現していないか、二つの可能性が残っている。全体を通じて、大きな進展が見られ、本研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
性成熟後の乳腺組織前駆細胞の維持の過程で作動していると思われる、aPKC-ErbB2 axisに関して、更なる詳細を明らかとする。さらに、この系がヒト乳癌とどのように関わっているかを調べる事も極めて重要である。さらに、上述の乳腺管腔前駆細胞に関する理解を踏まえて、乳腺幹細胞における役割の解析を進めるべく、誘導的KOマウスの作成を進めている。薬剤でCreの発現を全身で誘導する事で、幹細胞におけるaPKCの役割を調べる。レンチウィルスを用いたノックダウンの結果と合わせることにより、幹細胞におけるaPKCの役割を知ることができるはずである。
|