研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
23112004
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊池 章 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10204827)
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研究分担者 |
麓 勝己 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40467783)
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キーワード | 上皮管腔形成 / 極性 / シグナル伝達 / 細胞外基質 / Wnt / 増殖因子 / EGF / HGF |
研究概要 |
今年度は、三次元環境下において、細胞増殖因子により上皮細胞の管腔形成を誘導する実験系の構築を試みた。まず、ある種の上皮細胞株が、Wnt3aとEGFまたはHGFの組み合わせ(Wnt3a/EGFまたはWnt3a/HGF)により、細胞外基質ゲル(マトリゲル)を用いた三次元培養法において、管状の構造を形成することが明らかになった。これらの増殖因子の単独の刺激は、上皮細胞はシスト(嚢胞)の構造を形成したが、管状構造を形成することはなかった。Wnt3aの刺激はEGFが低濃度 (5 ng/ml)の条件下で上皮細胞の管腔構造を効率よく誘導したが、EGFを高濃度で作用させると管腔構造を形成できなかった。EGFは単独の刺激で上皮細胞のE-カドヘリンの発現を50%程度抑制して、ある程度上皮間葉転換(EMT)を誘導したが、この条件では管腔形成は認められなかった。Wnt3a/EGFを作用させると管腔構造が形成されたが、E-カドヘリンの発現はEGF単独と比べて大きな変化は認められなかった。したがって、Wnt3a/EGFはE-カドヘリンのダウンレギュレーション以外の機構で上皮細胞の形態変化を誘導する可能性が示唆された。 培地中にEGFを含んだ状態でWnt3aを含まないゲル中に細胞を播種し、Wnt3aを含むゲルを空間的に隣接させて配置したところ、上皮細胞はWnt3aを含むゲルに向けて管状構造を形成した。Wnt3aを含むゲル中に移動する細胞は、頂底極性マーカーであるエズリンが消失することから、上皮極性の消失が認められた。一方、EGFは基底膜ゲルとの親和性が低く、ゲル内に含ませることによって局所的な刺激を細胞に対して作用させることはできなかった。これらの結果から、Wnt3aが細胞外基質と高い親和異性を有する性質が方向性をもった形態形成に重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、上皮細胞がWnt3a/EGFまたはWnt3a/HGFの共刺激により、三次元環境下で管状構造を形成する実験系を確立できた。また、本三次元培養法を用いて、Wnt3aが有する細胞外基質との親和性やEMT非依存的な細胞形態形成制御などの特徴的な性質が、EGFとの協調により空間的な分枝管腔形成を制御する上で重要であることを見出すこともできた。本実験系の確立により、液性因子の新たなクロストークの分子機構を解明できると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Wnt3aシグナルとEGF(またはHGF)シグナルがどのようにして、上皮管腔構造を形成できるのかの実態を明らかにする。また、Wnt3aと細胞外基質(基底膜)タンパク質との結合の重要性が示唆されたため、細胞外基質タンパク質の中でWnt3aと特異的に結合するタンパク質を同定する。またEMT非依存的な細胞形態・運動制御のメカニズムを解明するために、マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現変動解析を行う。さらに当初計画した通り、別種のWntリガンドであるWnt5aがWnt3aとEGFによる分枝管腔形成に関与する機構を明らかにする。最終的には明らかになった細胞外基質と液性因子シグナルの協調が、マウス胎児から摘出した唾液腺や肺、腎臓等の器官培養系においても重要であるか否かを解析していく予定である。
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