研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
23112004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊池 章 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10204827)
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研究分担者 |
麓 勝己 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40467783)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 上皮管腔組織形成 / 極性 / シグナル伝達 / 細胞外基質 / Wnt / 増殖因子 / HGF / FGF |
研究実績の概要 |
昨年度の研究により、ラット腸管上皮細胞IEC6細胞がWnt3aとEGFの共刺激により三次元培養(マトリゲル存在)下で、管状の構造を形成することが明らかになった。これらの増殖因子の単独の刺激では、上皮細胞は嚢胞状(シスト)の構造はとるが、管状構造を形成することはなかった。この実験系を利用して、Wnt3aとEGFのシグナルの活性化により上皮管腔構造が形成される過程で発現するX因子を見出した。X因子の発現により、低分子量Gタンパク質Racの活性化とRhoの不活性化が起こった。特に適切なRhoの不活性化は重要であり、シストの一部の上皮細胞が伸長するために必須であった。この細胞伸長は管状構造の先導端の細胞で認められ、そこでは細胞増殖が引き起こされていることも明らかになった。すなわち、細胞形態の変化が細胞増殖のシグナルとなると考えられたので、その分子機構を探索した。その結果、転写活性化因子YAPが先導端細胞の核に移行し、細胞増殖を促進することが判明した。X因子をIEC6細胞からノックダウンすると、Wnt3a/EGFの存在下でも、細胞は伸長もせず、YAPの核内移行も認められず、管状構造が形成されなかった。したがって、Wnt3aとEGFの相乗的シグナルにより発現するX因子は上皮管腔形成に重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
三次元培養下でWnt3aとEGFまたはHGFの共刺激により、上皮管腔組織が形成される際に発現するX因子を見出すことができた。X因子は細胞骨格の制御を介して、細胞増殖を促進する重要な機能を有することが明らかになった。また、唾液腺、腎臓の器官培養を用いた解析から、X因子はこれらの臓器で上皮組織が管状に伸長し、分岐する過程で増加することを示すデータも得ている。本研究計画が目指している「極性」をキーワードにした上皮管腔形成の分子機構の解明のために、重要な分子を見出すことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、X因子が細胞外基質と液性因子シグナルの協調により活性化される分子機構を解明する。また、マウス胎児から摘出した唾液腺や肺、腎臓等の器官培養系においてもX因子重要であるか否かを解析していく予定である。X因子はWntシグナルとEGFシグナルの標的分子として見出された。両シグナル経路の異常活性化が多くのヒト癌症例で見出されている。X因子がヒト癌症例で過剰発現するか否かを解析して、陽性であれば、上皮管腔組織形成と癌の発症におけるX因子の役割を明らかにする。上皮管腔組織の「形成・維持」と「破綻」の両面からアプローチしている本領域においては、重要な研究となる。
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