研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
23112005
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大橋 一正 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (10312539)
|
研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 上皮細胞 / 機械的シグナル / アクチン骨格 / Rho / GEF |
研究概要 |
昨年度、Farp1結合蛋白質として同定したインテグリンに対するFarp1の結合ドメインを解析した結果、N末端のFERMドメインで結合していることを明らかにした。細胞-基質間接着におけるFarp1の機能を発現抑制によって解析した結果、Farp1の発現抑制は細胞外基質への接着による細胞の広がりを抑制し、接着依存的なMAPキナーゼの活性化を抑制することが明らかとなった。また、昨年から行っているプロテオミクス解析により、Farp1は、細胞間接着に関与する蛋白質とも結合することが明らかとなった。Farp1は、上皮細胞が細胞間接着を形成する際に細胞間接着部位にも強く局在するため、イヌ腎上皮MDCK細胞の細胞間接着形成時における機能解析を行った結果、Farp1の過剰発現はタイトジャンクションの形成促進に働き、細胞間接着に関与するFarp1結合蛋白質との共発現は、タイトジャンクション形成をさらに促進させることが明らかとなった。これまでFarp1が活性化する低分子量G蛋白質Rhoファミリーの種類は矛盾する報告がなされていたが、ヒトのRhoファミリー構成分子のほぼ全てとFarp1を細胞に共発現させてアクチン骨格の変化を観察し、RhoA, RhoC, Rac1, RhoHがFarp1によって活性化される可能性があることが明らかとなった。さらに、RhoC, Rac1はFarp1によって活性化されることを生化学的な解析により明らかにした。これらの結果より、Farp1は、細胞-基質間接着部位ではRac1を活性化して細胞増殖を促進し、細胞間接着部位ではRhoCを活性化させて細胞間の張力を上昇させ、頂底極性の形成とタイトジャンクションの形成促進に働くことが示唆された。また、LIMキナーゼの阻害剤としてDamnacanthalを同定し、細胞移動や癌細胞の浸潤を阻害する効果があることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Farp1とインテグリンの結合ドメインを解析し、インテグリンを介した細胞接着のシグナルの下流でFarp1が働き、細胞の基質面への広がりや増殖経路の活性化に寄与することを明らかにした。さらに、新たな結合蛋白質として細胞間接着に関与する分子を発見し、Farp1が上皮細胞の細胞間接着部位におけるタイトジャンクション形成促進し、頂底極性の形成促進に寄与することを明らかにした。これらの結果から、上皮管腔組織形成過程において、Farp1が細胞-基質間接着によるインテグリを介したシグナル伝達経路に関与すること、細胞間接着に関与して寄与することが示唆された。また、Farp1が細胞-基質間、細胞間接着にかかる機械的な力の応答に関与してシスト形成、管腔形成を制御する可能性が示唆された。これに対して、Farp1の作用機序の解析のために行った下流の標的分子の探索について、これまでに報告されているRhoA, Rac1に加え、新たにRhoCを活性化することを見出した。これらの結果は、Farp1を介したシグナル伝達経路の管腔形成における役割を解明する上で重要な知見である。また、コフィリンの不活性化酵素であるLIMキナーゼの阻害剤を発見し、細胞運動、細胞移動に対する効果を確認した。コフィリンのリン酸化制御の上皮管腔形成過程における機能解析についても有効なツールが得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 上皮管腔形成過程におけるFarp1の機能解析:3次元培養下のIEC6細胞、MDCK細胞のシスト、管腔形成におけるFarp1の機能解析を行う。蛍光蛋白質を付加した細胞骨格、細胞極性マーカー蛋白質を発現させた細胞を用い、3次元タイムラプス解析によってシスト、管腔形成時のアクチン骨格、細胞間接着、細胞極性の動的変化を可視化し、Farp1の発現抑制や不活性型の過剰発現の及ぼす影響を解析する。 2. 細胞-基質間、細胞間にかかる張力の高感度プローブの開発とイメージング解析:前年度より行っている細胞-基質間、細胞間接着部位にかかる張力を可視化するFRETプローブの開発を引き続き行う。カルシウムセンサーとして用いられているGFP蛋白質の円順列変異体cirGFPを FRETプローブの張力センサー部のYFPの代わりに連結し、張力がかかることでcirGFPの発光が消失する張力センサープローブの開発を試みる。 3. Farp1を介したメカノシグナルによる上皮管腔形成の制御機構の解析:Farp1結合蛋白質によるFarp1の活性制御によってシスト、管腔形成時の細胞骨格、細胞間、細胞-基質間の接着部位にかかる機械的な力の作用の制御を解析する。ミオシン軽鎖のリン酸化状態やアクチン骨格の形状をイメージング解析により可視化し、細胞集団にかかる力負荷分布を予測する。この結果を用い、Farp1とその結合蛋白質の発現抑制、各種変異体の過剰発現が細胞集団の形態変化に及ぼす影響と力負荷分布の関連を解析する。さらに、張力を可視化するプローブの開発に成功した場合、力負荷分布の変化に対するFarp1とその結合蛋白質の発現抑制、各種変異体の過剰発現の影響を解析し、管腔形成におけるFarp1の機械的力の制御の役割を明らかにする。
|