平面細胞極性シグナルの異常と繊毛関連症候群及び癌の浸潤転移

2011 年度 実績報告書

• 研究領域: 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立
• 研究課題/領域番号: 23112007
• 研究種目: 新学術領域研究(研究領域提案型)
• 研究機関: 神戸大学
• 研究代表者: 南 康博 神戸大学, 医学研究科, 教授 (70229772)
• 研究分担者: 真嶋 隆一 東京大学, 医科学研究所, 助教 (00401365)
• キーワード: 上皮管腔組織形成 / 平面細胞極性シグナル / 頂底極性シグナル / 繊毛シグナル / Wnt5a-Rorシグナル / アダプター分子 / 癌の浸潤転移 / 繊毛関連症候群

研究概要

本研究では、主に平面細胞極性シグナル(PCP:planar cell polarity)と上皮細胞頂上側に存在する繊毛を介するシグナルに焦点を当て、上皮管腔組織形成・破綻の機構を明らかにするとともに、これらのシグナルの異常や上皮間葉転換(EMT:epithelial-mesenchymal transition)と奇形や癌の浸潤等との関連を明らかにする。本年度の研究では、まず(1) 腎臓の発生における尿管芽形成時の後腎間葉においてPCPを誘導する液性因子Wnt5aの受容体であるRor2受容体チロシンキナーゼが高発現すること、Ror2、Wnt5a欠損マウスでは腎臓・尿管の奇形が認められること、及び腎上皮細胞の三次元培養から、Ror2が側底部に局在することが明らかとなった。また、(2) 大脳皮質は神経管の神経上皮細胞が管腔構造を維持したまま増殖・分化し形成されるが、この過程で神経上皮細胞(神経幹細胞)ではPCP制御因子であるWnt5a,Ror1,Ror2が高発現しており、Wnt5a-Ror1/Wnt5a-Ror2シグナルが幹細胞性維持に関わることが見出された。加えて、(3) 片側尿管閉塞によるマウス腎線維化モデルで、EMTに伴いWnt5a,Ror2の発現が誘導されること、及び上皮様癌細胞を(EMT関連転写因子)Snailの構成的発現によりEMTを誘導した際に、Wnt5a,Ror2の発現が誘導され、Wnt5a-Ror2シグナルによりマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-2が誘導され、浸潤能が亢進することが明らかとなった。さらに、(4) Wnt5a-Ror2シグナルにより繊毛の形成・機能に関わるIntraflagellar transport(IFT)-20が発現誘導されるとともに、Ror2と共局在すること、及びアダプター分子Dok-1/2/3三重欠損マウスにおいて肺上皮管腔構造の破綻がもたらされることが見出された。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本年度の研究開始当初には想定していなかった(本新学術領域研究の主旨に合致した)興味深い知見、「即ち(1) PCP制御因子Wnt5a,Ror2欠損マウスにおいて腎臓・尿管奇形が見出されたこと、(2) 腎臓における上皮管腔組織破綻に伴いWnt5a,Ror2が発現誘導されること」、等が得られ、その後の解析も順調に進んでいるため。また、細胞種・組織特異的に蛍光タンパク質を発現するトランスジニニックマウスとPCPに関わる各種因子欠損マウスの交配が順調に進んでおり、次年度以降の器官培養での解析が円滑に遂行できる状況が整備できたため。

今後の研究の推進方策

今後の研究の推進方策としては、腎臓、大脳皮質(神経管)に加え、さらに肺、腸管、乳腺などの上皮管腔組織についても、PCPシグナル、繊毛シグナルに焦点を当てた細胞・組織・器官レベルでの解析を進め、上皮管腔組織形成・破綻の分子機構の一般性について検討していく予定である。また、本年度はexo-utero法、in-utero法を用いた本領域内の共同研究を開始したが、今後とも本領域内における共同研究(イメージング解析、幹細胞分離法等も導入した共同研究)を推進し、本領域の目標達成に貢献したいと考えている。

研究成果

• [雑誌論文] Analysis of Wnt/Planar cell polarity pathway in cultured cells (2012)
  • 著者名/発表者名: Endo, M., Nishita, M., Minami, Y.
  • 雑誌名: Methods Mol.Biol. 巻: 839 ページ: 201-214
• [雑誌論文] Dissection of Wnt5a-Ror2 signaling leading to matrix metalloproteinase (MMP)-13 expression (2012)
  • 著者名/発表者名: Yamagata, K., Li, X., Ikegaki, S., Oneyama, C., Okada, M., Nishita, M., Minami, Y.
  • 雑誌名: J.Biol.Chem. 巻: 287 ページ: 1588-1599
  • 査読あり
• [雑誌論文] Ror-family receptor tyrosine kinases regulate maintenance of neural progenitor cells in the developing neocortex (2012)
  • 著者名/発表者名: Endo, M., Doi, R., Nishita, M., Minami, Y.
  • 雑誌名: J.Cell Sci. 巻: (印刷中)
  • 査読あり
• [雑誌論文] Wnt5a-Ror2 signaling between osteoblasts and osteoclast precursors enhances osteoclastogenesis (2012)
  • 著者名/発表者名: Maeda, K., Kobayashi, Y., Udagawa, N., Uehara, S., Ishihara, A., Mizoguchi, T., Kikuchi, Y., Takada, I., Kato, S., Kani, S., Nishita, M., Marumo, K., Martin, T.J., Minami, Y., Takahashi, N.
  • 雑誌名: Nat.Med. 巻: (印刷中)
  • DOI: 10.1038/nm.2653
  • 査読あり
• [雑誌論文] Wnt signaling gradients establish planar cell polarity by inducing Vangl 2 phosphorylation through Ror2 (2011)
  • 著者名/発表者名: Gao, B., Song, H., Bishop, K., Eliott, G., Garrett, L., English, M.A., Andre, P., Robinson, J., Sood, R., Minami, Y., Economedes, A.N., Yang, Y.
  • 雑誌名: Dev.Cell 巻: 20 ページ: 163-176
  • 査読あり
• [雑誌論文] Critical role of Wnt5a-Ror2 signaling in motility and invasiveness of epidermoid carcinoma cells following Snail-mediated epithelial-mesenchymal transition (2011)
  • 著者名/発表者名: Ren, D., Minami, Y., Nishita, M.
  • 雑誌名: Genes Cells 巻: 16 ページ: 304-315
  • DOI: 10.1111/j.1365-2443.2011.01487.x
  • 査読あり
• [雑誌論文] Non-canonical Wnt signaling mediates androgen-dependent tumor growth in a mouse model of prostate cancer (2011)
  • 著者名/発表者名: Takahashi, S., Watanabe, T., Okada, M., Inoue, K., Ueda, T., Takada, I., Watabe, T., Yamamoto, Y., Fukuda, T., Nakamura, T., Akimoto, C., T., Fujimura, T., Hoshino, M., Imai, Y., Metzger, D., Miyazono, K., Minami, Y., Chambon, P., Kitamura, T., Matsumoto, T., Kato, S.
  • 雑誌名: Proc.Natl.Acad.Sci.USA 巻: 108 ページ: 4938-4943
  • 査読あり
• [学会発表] Dissection of Wnt5a-Ror2 signaling leading to matrix metalloproteinase (MMP)-13 expression (2011)
  • 著者名/発表者名: Kaoru Yamagata, Shunkichi Ikegaki, Xin Li, Yasuhiro Minami
  • 学会等名: 第34回日本分子生物学会年会
  • 発表場所: パシフィコ横浜
  • 年月日: 2011-12-16
• [学会発表] Rorファミリー受容体型チロシンキナーゼは大脳皮質神経幹細胞の維持に働く (2011)
  • 著者名/発表者名: 遠藤光晴、土井亮助、西田満、南康博
  • 学会等名: 第34回日本分子生物学会年会
  • 発表場所: パシフィコ横浜
  • 年月日: 2011-12-13
• [学会発表] Ror-family receptor tyrosine kinases regulate maintenance of neural progenitor cells in the developing neocortex (2011)
  • 著者名/発表者名: 遠藤光晴、西田満、南康博
  • 学会等名: 第63回日本細胞生物学会大会ワークショップ
  • 発表場所: 北海道大学クラーク会館
  • 年月日: 2011-06-28
• [図書] The Receptor Tyrosine Kinase Handbook (chapter : Ror receptor family) (2012)
  • 著者名/発表者名: Endo, M., Nishita, M., Doi, R., Minami, Y.
  • 出版者: Springer Science(印刷中)
• [備考]
  • URL: http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molbiobc/tubulology/
• [備考]
  • URL: http://www.med.kobe-u.ac.jp/medzoo/