計画研究
平成25年度の研究から、以下のことを明らかにした。(1)腎臓の発生では、上皮組織(ウォルフ管)と間葉組織(後腎間葉)の相互作用が集合管系の形成に重要であるが、後腎間葉において限局したWnt5a-Ror2シグナルの活性化が、限局したGDNF-Retシグナルの活性化をもたらすことによりウォルフ管から左右各々1つの尿管芽の形成を誘導し、実際Wnt5a-Ror2シグナルの欠損マウスは重複腎・尿管奇形、水腎症・水尿管症を呈し、時空間的に制御されたWnt5a-Ror2シグナルがGDNF-Retシグナルの適切な活性化に必須であることが見出された(論文投稿中)。(2)片側尿管結紮による腎線維症モデルを用いて、上皮間葉転換(EMT)に伴いWnt5a-Ror2シグナルが活性化され、マトリックスメタロプロテアーゼ2 (MMP-2)が誘導され、細胞外基質のラミニン等を分解することによって尿管上皮基底膜が破壊され線維化が亢進することが明らかになった(Genes Cells, 2013)。(3)一次線毛の形成に重要な因子であるIFT20 (intraflagellar transport 20) が、骨肉腫細胞においてWnt5a-Ror2シグナルによって誘導され、浸潤突起の形成や浸潤能の亢進に重要な役割を担うことが見出された(未発表)。(4)Dokファミリーアダプター分子群が肺胞上皮管腔組織の恒常性維持に重要な役割を担うことが示された(未発表)。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究により、上皮管腔組織である腎臓の発生過程において平面細胞極性シグナル(Wnt5a-Ror2シグナル)が必須の役割を担うことを明らかにするとともに、このシグナルの異常が腎尿管奇形や腎線維症などの病態と密接に関連することを見出した。また、繊毛シグナルに関わるIFT-20が癌の浸潤転移において重要な役割を担うことを見出すことが出来、当初の目的・計画に鑑みて、一定以上の研究成果を挙げることが出来たと考えており、本研究は順調に進展していると判断される。また、次年度以降の、肺・唾液腺などの他の上皮管腔組織を対象とした平面細胞極性シグナルや繊毛シグナルの病態解析のための遺伝子改変マウスの準備状況や器官培養系でのおとり受容体や各種阻害剤を用いたシグナル撹乱実験等の準備状況も概ね良好であると考えている。
本年度までは上皮管腔組織として腎臓、大脳皮質などを対象として解析を進めてきたが、今後は肺・唾液腺などの他の上皮管腔組織の形成・維持・破綻における平面細胞極性シグナルや繊毛シグナルの分子病態解析を推進し、様々な上皮管腔組織の破綻における共通のメカニズムを明らかにするとともに、上皮管腔組織のタイプによって異なるメカニズムについてもその実体を解明したいと考えている。また、上皮管腔組織の加齢に伴う平面細胞極性シグナルの変化についても興味深い予備的な成果を挙げることが出来たので、今後は加齢(老化)に伴う上皮管腔組織の破綻についても検討していく予定である。一方、平面細胞極性シグナルの異常と癌の浸潤転移の関連については一定以上の成果を挙げることが出来たが、繊毛シグナルの異常と癌等の病態との関連については、IFT20について新たな知見を得ることが出来たが、繊毛シグナルという点ではさらに深化した研究の推進が必要と考えており、今後は繊毛シグナルについての解析を強化していく計画である。さらに、創薬という視点では、これまでの研究では、(Wnt5a)おとり受容体の量産法・精製法の確立に限定的であったが、今後はin vitro、in vivoの実験系を用いて、おとり受容体の効果を検討する予定である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件) 図書 (2件) 備考 (2件)
Genes Cells
巻: 19 ページ: 287, 296
10.1111/gtc.12132
Rheumatology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Epub ahead of print
Sci. report
巻: 4 ページ: 4493
10.1038/srep04493
巻: 18 ページ: 608, 619
10.1111/gtc.12064
http://www.med.kobe-u.ac.jp/medzoo/
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molbiobc/tubulology/index.html