計画研究
平成26年度の研究から、以下のことを明らかにした。(1)これまで腎発生での上皮組織(ウォルフ管)と間葉組織(後腎間葉)の相互作用において、後腎間葉での限局したWnt5a-Ror2シグナルの活性化が限局的GDNF-Retシグナルの活性化をもたらし、ウォルフ管から左右各々1つの尿管芽を形成することを明らかにしたが、今回器官培養系における尿管切断実験により、尿管の伸長において近接する中腎・後腎間葉の移動が重要な役割を担うことが示された(未発表)。(2)一次繊毛形成に必須な因子であるIFT20 (intraflagellar transport 20) が、一次繊毛を持たない骨肉腫細胞において活性化されたWnt5a-Ror2シグナルにより誘導され、ゴルジ体の構造の保持や中心体による極性形成において重要な役割を担い、骨肉腫細胞の浸潤能の亢進に重要な役割を担うことを明らかにした(未発表)。(3)(マウスの)加齢に伴い、顎下腺上皮細胞においてRor2の発現が亢進すること、および顎下腺の導管結紮により顎下腺上皮においてRor2の発現が亢進することを見出した(未発表)。(4)basicFGFによる神経前駆細胞からのアストロサイトへの分化におけるRor2の発現誘導において、エピジェネティック制御が重要な役割を担うことを明らかにした(未発表)。(5)遺伝子改変マウスの解析よりDokファミリーアダプター分子群が肺胞上皮管腔組織の恒常性維持に重要な役割を担うことが示された(未発表)。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究により、上皮管腔組織である腎臓の発生過程において上皮―間葉相互作用、特に中腎・後腎間葉の移動が重要な役割を担うことを明らかにした。また、繊毛シグナルに関わるIFT-20が、細胞内器官の1つであるゴルジ体の構造保持や中心体の極性などを制御し、癌の浸潤において重要な役割を担うことを見出し、当初の目的・計画に鑑みて、一定以上の研究成果を挙げることが出来たと考えており、本研究は順調に進展していると判断される。また、最終年度に向けた、唾液腺(顎下腺)などの他の上皮管腔組織を対象とした平面細胞極性シグナルや繊毛シグナルの病態解析のためのモデルマウスの準備状況や器官培養系での各種阻害剤などを用いたシグナル撹乱実験等の準備状況も概ね良好であると考えている。また、平面細胞極性シグナルの重要な因子の発現がエピジェネティック機構により制御されるという興味深い知見を得ることができた。
本年度までは上皮管腔組織として腎臓、唾液腺、大脳皮質などを対象として解析を進めており、最終年度ではさらに肺・消化管などの上皮管腔組織の形成・維持・破綻における平面細胞極性シグナルや繊毛シグナルの分子病態解析を推進し、様々な上皮管腔組織の破綻における共通のメカニズムを明らかにするとともに、上皮管腔組織のタイプによって異なるメカニズムについてもその実体を解明したいと考えている。また、上皮管腔組織の加齢や炎症に伴う平面細胞極性シグナルの変化についても興味深い予備的な成果を挙げることが出来たので、今後は加齢(老化)に伴う上皮管腔組織の破綻について詳細に検討する予定である。一方、平面細胞極性シグナルの異常と癌の浸潤転移の関連については一定以上の成果を挙げることが出来たが、繊毛シグナルの異常と癌等の病態との関連については、IFT20について新たな知見を得ることが出来たが、細胞内器官(ゴルジ体)の制御という新たな方向性が見出され、今後はゴルジ体や中心体の極性制御についても解析を進める計画である。さらに、創薬という視点でも、今後はin vitro、in vivoの実験系を用いて、阻害剤によるシグナル撹乱の効果などを検討する予定である。
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