研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
23112008
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐邊 壽孝 北海道大学, 大学院・医学研究科, 教授 (40187282)
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研究分担者 |
小根山 千歳 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (90373208)
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キーワード | 乳癌 / 浸潤 / TGFβ1 / p53 / Arf6 / GEP100 / microRNA / ILK |
研究概要 |
これ迄に、Arf6を中心とした細胞内シグナル経路が多くの乳癌の浸潤転移に関与していることを明らかにして来た。その際、Arf6はGEP100によって活性化され、活性化したArf6はAMAP1をエフェクターとする。また、GEP100はEGFR,Her2等チロシンリン酸化酵素型受容体により活性化される。一方、乳癌患者標本のコホート解析から、TGFβ1が、乳癌細胞の癌幹細胞様細胞化と浸潤転移性獲得に最も高頻度で関与する因子である事が示されている。TGFβ1によってもこのArf6経路が活性化すること、その際、TGFβ1によってチロシンリン酸化酵素型受容体であるc-Metが活性化されること、活性化されたc-MetにGEPIOOが結合していることを見いだしている。この結合は直接ではなく、Gab1とよばれるadaptorが介在した。本年度は、TGFβ1によるc-Metの活性化機構を明らかにすべく解析を進めた。 癌の約半数にp53遺伝子の変異が認められ、また、このような変異の多くはgain-of functionである。解析の結果、特定の乳癌細胞におけるTGFβ1によるArf6の活性化には、p53のgain-of-function変異が必須である事を明らかにした。変異p53の発現をsiRNA法により抑制すると、TGFβ1によるArf6活性化は抑制され、浸潤の活性化もなくなった。野生型p53の戻し実験系においても、TGFβ1によるArf6の活性化はなかった。また、野生型p53の戻すとArf6経路の特定の蛋白質の発現が抑制されること、この抑制は当該mRNAの転写後の制御であることを見出している。また、Srcファミリーキナーゼの活性化によるmicroRNAを介したILKの発現亢進が細胞接着斑の形成の破綻を引き起こしがん悪性化に繋がることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究結果は順次出ているが、当初目的の達成には遅れを生じている。これは、TGFβ1によるArf6の活性化や浸潤活性上昇にp53の変異などゲノム/エピゲノム状態の変異が大きく関与する事など、当初、予想もしなかったメカニズムの関与による。一方、癌はゲノム変異に起因する疾患である。従って、Arf6経路活性化にp53をはじめとするゲノム変異が関与する事が分かった事は、今後の展開に大きな展望を与えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずもって、p53の変異がどのようにしてTGFβ1によるArf6の活性化に関与するのか、その作用点を特定し、その分子メカニズムの詳細を明らかにする。またSFKの活性化がmicroRNAの発現を制御しているメカニズムについても解析する。続いて、それに関わる因子(群)に関して、病理標本解析を行ない、その妥当性と使用頻度を調べる。乳腺の移植実験系も早急に立ち上げ、動物個体における解析系の構築へと向かう。
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