研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
23112101
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
原 英二 公益財団法人がん研究会, がん研究所がん生物部, 部長 (80263268)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 発癌 / がん微小環境 / 液性因子 |
研究実績の概要 |
細胞老化のがん微小環境における役割の解明を目指し、本年度は以下の研究結果を得た。 (1) 発がん過程における老化細胞(細胞老化を起こした細胞)の体内動態を細胞老化マーカーであるp16や p21遺伝子の発現可視化マウスを用いて解析した。その結果、加齢や肥満など発がんリスクの上昇に伴い、体の様々な部位に老化細胞が出現し、その周囲にがんが発生することを見出した。特に肥満の場合には肝臓のstellate細胞に細胞老化が起こり、それに伴い、肝実質細胞のがん化がみられた。また、この時、老化細胞は炎症性サイトカインをはじめとする様々な液性因子(SASP因子)を高発現しており、SASP因子の発現に必要な遺伝子を欠失したノックアウトマウスでは肝癌の発症が著しく抑制されることを見出した。これらの実験結果は老化細胞がSASP因子を介してがん微小環境に作用し発がんを促進していることを強く示唆している。 (2) これまで我々は、培養細胞を用いた解析から、細胞老化に伴うSASP因子の発現にヒストンメチル化酵素であるG9a及びGLPの発現低下が重要であることを見出してきたが、生体内でも同様のメカニズムが働いているかどうかについては不明であった。今回我々は様々な組織を用いたクロマチン免疫沈降法(in vivo ChIP)を確立し、この方法を用いて、加齢や肥満の過程で起こる細胞老化に伴うSASP因子の発現にG9a/GLPの発現低下とそれに伴うヒストンH3リジン9のジメチル化レベルの低下が関与している可能性を見出した。これらの研究結果は生体内における細胞老化に伴うSASP因子の発生機序の解明とその調節方法を見出せる可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞老化反応を可視化できるマウスと様々なノックアウトマウスを組み合わせた解析により、細胞老化とそれに伴う液性因子の発現が発がんを促進していることを明らかにした。このことは細胞老化のがん微小環境における役割の解明を目指した本研究の目的の一部を達成したと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
(1) SASP因子の産生を調節する機構を探索するために、先ず、培養細胞とshRNAライブラリーや化合物ライブラリーを組み合わせた解析を行うことで、SASPの誘導を効率よく抑制するための分子標的の探索を試みる。次に、得られた分子標的をsiRNAや低分子化合物を用いて、生体内で抑制することによりがん微小環境と発がんの進展に及ぼす影響を検討する。 (2) 現在作成中である薬剤投与により老化細胞を全身性に除去可能にした遺伝子改変マウスを用いることで、細胞老化のがん微小環境における役割を総合的に評価することを目指す。
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