計画研究
Phodopus属のキャンベルハムスターとジャンガリアンムスターのF1雑種では、胎仔と胎盤に発育不全現象が見られ、その表現型は、両親の雌雄の組み合わせによって大きく異なる。この雑種の発育不全現象とゲノムインプリンティングの関わりを明らかにするため、雑種の胎仔と胎盤を用いてインプリント遺伝子の発現解析を行った。その結果、胎仔・胎盤の成長抑制が見られるキャンベルハムスター雌とジャンガリアンハムスター雄のF1雑種ではGatm、Peg3、Usp29で、顕著な胎仔の過成長と胎盤の肥大が見られる逆交配ではDlk1/Peg9、Gatm、Grb10/Meg1、Kcnq1ot1、Mest/Peg1で両親性発現が見られた。この結果より、雑種の発育不全と、両親の雌雄の組み合わせによる表現型の違いは、異種ゲノムの不適合性によるエピジェネティックな発現制御の異常に起因していることが明らかとなった。アヒルとバリケンのF1雑種(ドバン)の精巣の組織学的・細胞遺伝学的解析を行い、この属間雑種の不妊は、染色体の不適合性によって第一減数分裂の染色体対合が阻害され、パキテン期で減数分裂が停止することによって引き起こされることを明らかにした。ウズラとニワトリのF1雑種胚は、そのほとんどが胚発生期に死亡し、孵化する個体はごくわずかである。培養開始後7日までF1雑種胚の発生段階の経時観察を行なった結果、ニワトリと比較して、培養24時間から72時間までは数時間、培養97時間以降は約12時間の遅延が発生し、また、孵化に要する時間が18~19日であることを明らかにした。胚性致死の原因を調べるため、胚盤葉細胞と初期胚の培養線維芽細胞の染色体解析を行なった結果、染色体の不分離は見られず、染色体異常がF1雑種の胚性致死の原因ではないことを明らかにした。さらに、致死胚の発生停止がステージ3で顕著にみられることから、この時期までの遺伝子発現の異常が致死の主要因と考えられた。
3: やや遅れている
キャンベルハムスターとジャンガリアンハムスターのF1雑種の胎仔と胎盤を用いて、多くのインプリント遺伝子の解析を行なった結果、複数のインプリント遺伝子に発現異常(両親性発現)が見られた。この結果から、Phodopus属ハムスターの雑種胎仔と胎盤における発育不全と、両親の雌雄の組み合わせによる表現型の違いに、ゲノムインプリンティングが関わっていることを明らかにしたことは大きな研究成果といえる。しかし、インプリント遺伝子におけるDNAメチル化インプリントの解析はまだ行なっておらず、インプリント遺伝子の発現異常を制御している分子基盤の解明にはまだ至っていない。アヒルとバリケンのF1雑種の研究では、この雑種の不妊が、染色体の不適合性による染色体の対合阻害による減数分裂の停止が主たる要因であることを明らかにした。この研究成果については、当初の目標を十分に達成できた。ニワトリとウズラの雑種については、胚性致死の原因が、染色体の不分離による染色体異常ではなく、ステージ3に至るまでの初期胚における遺伝子の発現異常が致死の主要因である可能性を明らかにした。しかし、どのような遺伝子の発現異常が雑種胚の致死に関わっているのかはまだ不明であり、今後は雑種の初期胚を用いた網羅的な遺伝子発現解析が必要である。
1)Phodopus属ハムスターの雑種の発育不全現象の研究雑種の胎仔と胎盤において両親性発現が見られたインプリント遺伝子に着目し、バイサルファイト法を用いた塩基配列解析によって、メチル化可変領域のメチル化インプリントの状態を明らかにし、雑種の発育不全を引き起こすエピジェネティックな遺伝子発現制御機構とその分子基盤の解明を試みる。さらに、今後は、ゲノム全体のDNAメチル化プロフィールを明らかにする目的で、全ゲノムレベルでのメチル化DNA解析を行う。そのために、親種と雑種の胎仔と胎盤のゲノムDNAから、メチル化DNAを濃縮し、新型シーケンサーを用いてシーケンス解析を行う。そして、リファレンス配列へのマッピングによって、メチル化可変領域を検出し、高メチル化領域と低メチル化領域を同定する。そして、メチル化パターンと表現型との関係を調べることによって、雑種の発育不全を引き起こすエピジェネティックな制御領域を同定し、今後、雑種の発育不全に関わる特定遺伝子の発現制御機構を解析するための基礎情報を得る。2)ニワトリ-ウズラのF1雑種の胚性致死に関する研究今後は、孵化直後の胚盤葉期胚ならびにステージ3直前の初期胚を対象に、新型シーケンサーを用いたRNA-sequencingによって、網羅的な遺伝子発現解析を実施し、雑種胚の致死を引き起こす遺伝的要因とその分子基盤を明らかにする。RNA-seq解析の結果に基づき、雑種胚でアリル間の発現に不均衡が見られる遺伝子群を検出し、その由来を調べることによって、どちらの種由来のアリルに発現が偏っているかを明らかにする。そして、発現の変動が見られた遺伝子の中から、細胞分裂や発生を制御する遺伝子に着目し、それらの機能を調べることによって、胚性致死を引き起こす遺伝的要因を分子レベルで明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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