研究領域 | ゲノム・遺伝子相関:新しい遺伝学分野の創成 |
研究課題/領域番号 |
23113005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松岡 信 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (00270992)
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研究分担者 |
中嶋 正敏 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (50237278)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | 育種学 / 遺伝学 / 遺伝子 / 植物 |
研究概要 |
ジベレリン(GA)は陸上植物の進化の過程で、共通な受容・伝達システムを保持しながら、コケ・シダ・被子植物において、雄性器官の運命決定・発達、茎葉伸長、種子発芽など、様々な生命現象に関与するようになった。本研究は、進化の諸段階で様々な機能の分化に成功したGA 化合物と受容システムを解析し、ゲノム・遺伝子相関の一つのモデルケースを提供することを目的として進化過程における3つの局面を取り上げ、研究を行う。 (1)陸上植物に共通するGAMYBが制御する雄性生殖器官発達機構 GAMYBはコケの時代(GA合成や受容成立以前)とそれ以後(シダ植物以降、GA信号伝達下で)を通して雄性生殖器官形成に関与する。コケGAMYB破壊株の茎葉体茎頂において729個の発現変動遺伝子を見いだし、発現減少遺伝子の5’上流域にはGAMYB結合配列が高頻度に存在することを確認した。この発現変動遺伝子についてシロイヌナズナのオーソログ遺伝子を抽出し花粉発達に必須なAMSやMS1のオーソログ遺伝子が含まれることを確認した。この結果は、コケ植物と種子植物の雄性生殖器官形成にはGAMYBが必須であり、両者の胞子発達・造精器形成における分子機構は酷似していると想定される。 (2)シダ(カニクサ)のアンセリジオーゲン(An)の合成と受容 カニクサAnの合成と受容機構について解析しその機構を解明した。 (3)シロイヌナズナの多様化したGA受容メカニズムの生理的意義に関する研究 シロイヌナズナは3種類のジベレリン受容体AtGID1a, b, cを持つ。これら3種のAtGID1とシロイヌナズナに存在する5種のDELLA因子との全15通り(3×5)の組合せで2分子間の結合の親和性を評価したところ、AtGID1bは他と異なる傾向を示し、他のGID1よりDELLA因子との親和性が強いことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
シダ(カニクサ)のアンセリジオーゲン(An)の合成と受容に関して、活性型GAと異なる構造を持つAnが造精器誘導活性を発現するためには、C3位の水酸化が必要であることを確認した。この結果は、シダの造精器誘導には、現在Anとして知られている化合物のままではなく、前葉体に取り込まれて活性型GAに変換されて機能することを強く示唆した。そこでこの作業仮説に立ち、前葉体に活性型GAまたはAnを添加し、両者の遺伝子の発現変動に及ぼす効果について網羅的に調査した結果、An受容がGID1-DELLAシステムにより行われることを確認した。さらに、カニクサ前葉体発達過程に於いて、発生初期の段階ではGA合成過程の最終ステップを触媒するGA3ox遺伝子のみが強く発現する、一方、発生後期の段階では、GA合成過程の初発反応からGA3oxの基質であるGA9までの酵素が強く発現することを見出した。活性型GAに比べてAnの方がカニクサ前葉体の取り込みに取って有利な構造を持つことを明らかにした。これらの結果から、カニクサAnの合成と受容機構について下のようなモデルを提出した。カニクサ前葉体は、その発生過程の初段階でAnにさらされると、取り込まれた後GA3oxの働きにより活性型のGAに変換しGID1-DELLAシステムにより受容され造精器形成を誘導する。一方、発生過程の初段階でAnにさらされず発生が中期以降に進むと、GA3oxが減少しAnの受容活性は低下し、その代わりGA3oxの基質であるGA9までの酵素が強く発現し自身がAn合成を活発に行う。
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今後の研究の推進方策 |
GA信号伝達機構の確立(「如何にして生物は新規信号伝達機構を構築するか」) 生物の複雑な生命現象を生み出す「ゲノム・遺伝子相関」の実体解明の観点から、GAMYB制御システムがコケの時代とそれ以降で変化したか(しなかったのか)、しなかったとしたらどのようにGA信号の下流に組み入れられたかの質問に答える研究を行う。コケGAMYB破壊株を用いて、GAMYBの制御下にある遺伝子を検索し制御システムを解析する。同時に、シロイヌナズナでも同様な実験を行い双方の相同性を検証する。現在までの予備的結果から、コケとシロイヌナズナの雄性器官形成にGAMYBが必須で、両者に共通の下流遺伝子も確認され、その類似性は高いことが期待されている。カニクサの発現データベースについて、本領域期間中に真性シダとして初めての発現アトラスデータベースとして公開を目指す。 GA受容体・GA信号制御因子の複雑化に伴う、GA制御機構の巧妙化 双子葉植物に出現したGA感受性GID1の分子機構とその生理的意義の解明を中心に研究を進める。GID1高感受性の分子機構に関して現在までに、感受性決定領域としてGID1のN末領域に存在するlid領域が主要因となりGA感受性の優劣が決まることを確認した。今後さらに、lid領域内に存在するアミノ酸残基の点変異効果の解析を行い、高感受性となる分子機構の詳細な解明を行う。本研究は、既に成立したGA受容体が、進化の過程でゲノムコピー数を増加させ、さらに一段高い感受性や新規な特異性を獲得する際にどこをターゲットにしたかを明らかにする試みであり、複雑化する受容システムの分子的基盤の理解に貢献する。
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