計画研究
本研究組織では、アブラナ科植物の自家不和合性を人為的に制御し、インセスト回避に関わる分子機構を明らかにする。また、自家不和合性に関連した雌雄間の相互作用が同一種内で生殖隔離を生みだしている現象について、これを制御する遺伝子の機能と進化を調べることにより、「遺伝子機能の多様化」との関連を明らかにする。さらに、イネを用いて雄性生殖器官特異的低分子RNAを網羅的に解析することにより、「エピジェネティックな制御」による雌雄間での「ゲノム・遺伝子相関」に関わる分子の相互作用の理解を目指す。平成25年度は、以下の3つのプロジェクトについて、おおむね順調な実験成果を得た。「シロイヌナズナを用いたインセスト回避機構解明」については、SRK遺伝子に変異が見られるハプロタイプBについて、変異を修復した正常型SRKを導入した形質転換体での自家不和合性表現型を調査したところ、本機構の回復は見られなかった。この結果は、内在性のSCR遺伝子の発現量に起因することを明らかにした。「同一種内異種ゲノムが引き起こす新規生殖隔離遺伝子の実態解明」に関しては、Brassica rapaの同一種内新規生殖隔離に関わると考えられる柱頭側認識因子(SUI1)について、それを導入した形質転換体を継続的に作出し、表現型が一側性不和合性を示すものを得ることできた。また、SUI1の進化解析のために様々な系統から遺伝子を単離して配列を決定し、雌雄因子のセットとして比較解析できる基盤が整った。「雌雄ゲノム・遺伝子相関因子の網羅的解析」については、イネ葯のsmall RNAの網羅的解析について、低温ストレス応答のトランスクリプトーム比較の結果から、活性酸素種の異常活性化により酸化還元バランスの崩壊とタペートの異常肥大が起き、それが花粉不稔を導いている可能性が示唆され、引き続き詳細な解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
「同一種内異種ゲノムが引き起こす新規生殖隔離遺伝子の実態解明」「雌雄ゲノム・遺伝子相関因子の網羅的解析」の2つのプロジェクトに関して、それぞれ予定通りの発展的成果が得られた。特に、困難が予想されたSUI1の機能が証明できたことで、新規生殖隔離遺伝子が雌雄セットとして同定できたことは大きな進歩である。また、「シロイヌナズナを用いたインセスト回避機構解明」については、期待された表現型が得られなかったが、原因が明らかになったため、次年度以降に改善が期待される。以上の理由から、全体として順調に進展していると判断した。
シロイヌナズナでは、自家不和合性因子の崩壊過程について、同祖遺伝子との塩基配列および機能比較により、プロモーター領域およびコード領域に存在する変異と機能喪失の関連を調べる。アブラナでは、形質転換後代の解析と、雌雄因子セットの進化的解析を行う。イネの低分子RNA解析では、興味深い発現動態を示すターゲットを絞り、ゲノム・遺伝子相関因子に関する遺伝的・エピジェネティック的な制御メカニズムを調べる。三重大における花粉管伸長の表現型解析を加速するため、蛍光顕微鏡が必要である。また、進化的解析については、班友であるチューリッヒ大学の清水に協力していただく。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (23件) (うち招待講演 16件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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