研究領域 | ゲノムを支える非コードDNA領域の機能 |
研究課題/領域番号 |
23114002
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
小林 武彦 国立遺伝学研究所, 細胞遺伝研究系, 教授 (40270475)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 非コードDNA / 組換え修復 / リボソームRNA遺伝子 / 遺伝子増幅 / 反復配列 / インターメア / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
<rDNAの安定性、コピー数が異常な変異株の解析> リボソームRNA遺伝子(rDNA)は、同一配列が100コピー以上繰り返して存在し、染色体の大きな領域(酵母の場合は12番の60%)を占める巨大反復配列である。rDNAはコピー間の組換えが起こりやすく最大級の脆弱部位となり、その状態の変化が染色体全体に影響を与え、細胞老化やDNAダメージ耐性の低下を引き起こす。本研究ではrDNAの安定化に関わる因子を網羅的に同定し、rDNAに起因した染色体不安定性を防ぐネットワーク機構、またその破綻が細胞機能に与える影響について、酵母と動物細胞を用いて解析する。 これまで出芽酵母の遺伝子欠損ライブラリー約4,800株について、rDNAの安定性及びコピー数が異常になる変異株を網羅的に同定し、予想を遥かに超えた約500株のrDNA異常株を単離した。それらを遺伝子の機能でグループ分けしたところ、1つはヒストン修飾に関わる遺伝子の変異株で、代表としてrtt109変異株を詳しく解析した。RTT109はヒストンをアセチル化する作用がありDNAの複製や修復に関わっていることが知られている。興味深いことにrtt109変異株ではrDNAのコピー数が爆発的に上昇した。その分子機構を解析したところ組換え最終段階に異常が起こり、ローリングサークル型複製が誘導されていることが判明した。カエルなどの両生類の卵形成時に同様なローリングサークルによるrDNAコピー数の爆発的増加が観察されることから、ヒストン修飾の制御が本来増幅様式の変換の1方法として存在することが示唆される。さらにrtt109変異株では寿命が短縮している。 <動物細胞での解析> 酵母で見つかったrDNAに異常をもたらす遺伝子やその他rDNAに影響を与える可能性のある遺伝子を動物細胞でのノックダウンしている。いくつかについてはrDNAの状態に影響を与えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子欠損ライブラリー約4,800株については予定よりも早く終了し、現在発表に向けてデータベースと論文を作成している。データベースについてはほぼ完成しており本領域班員には既に公開している。rDNAに異常をもたらす遺伝子を機能によりグループ分けし、それぞれの代表的な遺伝子について、rDNAでの役割を解析している、昨年はRTT109について解明し論文として発表した(Ide et al., Plos Genet)。酵母においてrDNAに異常をもたらす遺伝子の動物細胞でのノックダウンも順調に行われており、既に複数の遺伝子が同定されている。今後の発展が楽しみである。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ特段の問題はなく、きわめて順調に進行している。今後は計画通り、得られた変異株を解析し、rDNAの安定化機構の解明を目指す。既にrDNAのコピー数が異常増加した株については、その表現型の解析から、コピー数維持の1つのメカニズムを解明した。現在新たに3株のrDNAが異常になった株について解析中で、内1株は興味深いことに核膜のタンパク質をコードする遺伝子に変異を持つ。核膜にはゲノムの安定性に関わるタンパク質が複数局在しているが、その機能については全く未知であり、今後の展開が楽しみである。得られた情報は班会議等でまず領域内に公開し、共同研究を迅速に押し進める。
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