研究領域 | ゲノムを支える非コードDNA領域の機能 |
研究課題/領域番号 |
23114006
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
梶川 正樹 東京工業大学, 生命理工学研究科, 講師 (90361766)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 転移因子 / レトロトランスポゾン / クロマチン / DNAメチル化 / サイレンシング |
研究実績の概要 |
レトロトランスポゾンは自身のRNA配列を逆転写反応でコピーし宿主ゲノムに挿入することでそのコピー数を増幅する寄生性の配列である。レトロトランスポゾンの転移・増幅は、宿主ゲノムの立場に立てば挿入変異である。すなわちレトロトランスポゾンは、内生のゲノム変異原である。そのような危険な存在であるにもかかわらず、転移因子はほぼすべての真核生物のゲノム中に存在し、宿主生物ゲノムと共に存在している。加えて、高等真核生物ゲノムにおいては、そのかなりの領域(たとえば哺乳類においてはその約半分)がレトロトランスポゾンで構成されている。我々は、これらレトロトランスポゾンが宿主ゲノムの遺伝子発現制御やその成り立ちにどのような影響を及ぼしているのか明らかにすることを目的としている。 これまで、レトロトランスポゾンの一種LINE(哺乳類の主要なレトロトランスポゾン)の生体内での転移・増幅の解析系はほぼ存在していなかった。そのため、転移因子LINEがいつどのように増幅しているのか、その新規転移が宿主ゲノムにどのような影響を及ぼすのか解析する手段に乏しかった。我々は、この問題を解決するため、転移因子LINEの新規転移を誘導し検出する実験系をゼブラフィッシュ生体を用いて構築した。さらには、この新規LINE転移が宿主ゲノムのエピゲノム情報にどのような変化をもたらすのか検出する手法の構築を行った。これらの解析系は、今後、LINEレトロトランスポゾンが宿主ゲノムの成り立ちにどのようにかかわっているのか解明する上で非常に有効な実験系であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転移因子LINEは脊椎動物をはじめとして幅広く真核生物のゲノム中に存在しており真核生物ゲノムの大きな構成要素である。しかし、その転移増幅のメカニズムを生体を用いて解析する実験系の構築は未だ進んでいない。本研究課題において我々は、転移因子LINEの増幅機構および転移因子LINEが宿主生物ゲノムの成り立ちにどのような影響を及ぼしているのか解析する実験系として、ゼブラフィッシュ生体内でLINE転移検出系を構築した。また、導入するRNA量を変化させることで、転移頻度を個体あたり数個から数十個まで調節することに成功した。さらに数種類のLINE配列についてゼブラフィッシュ生体内で転移させることに成功している。 このゼブラフィッシュ生体におけるLINE転移検出系は、今後、LINEの転移増幅メカニズムを解析する上で、また、転移因子の存在が宿主ゲノムにどのような影響をもたらすのか解析する上で有用な実験系となる。現在、この実験系で転移させた新規LINE配列がゼブラフィッシュゲノムのヒストン修飾やDNAメチル化などのエピジェネティック情報にどのような影響を及ぼしているのか解析するための実験系も構築済みである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で構築できたゼブラフィッシュ生体内でのLINE転移検出系を用いて、LINEの新規転移が宿主ゲノムのクロマチンにどのような影響を及ぼしているのか、ゲノムの遺伝子発現制御にどのような影響を及ぼしているのかを解析する。具体的にはゼブラフィッシュ内でLINEの新規転移を誘導し、この新規転移がどのような変化(クロマチン構造やDNAのメチル化修飾など)を引き起こし、その変化がどのように世代を経て引き継がれるのか解析する。
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