研究領域 | ゲノムを支える非コードDNA領域の機能 |
研究課題/領域番号 |
23114007
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
菱田 卓 学習院大学, 理学部, 教授 (60335388)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | DNA損傷 / DNA相同組換え / 非コードDNA領域 / 突然変異 / DNA損傷トレランス / 出芽酵母 |
研究概要 |
遺伝子をコードしていない非コードDNA領域は、その特徴として反復配列が多く存在し、ヘテロクロマチン構造を形成している場合が知られている。このような領域にDNA損傷が生じた場合は、損傷の修復が起こりにくいだけでなく、修復の過程自体がゲノム不安定性を増大させる要因となる可能性がある。そのため、非コード領域の損傷応答は厳密な制御下で機能することが必要であるが、その制御メカニズムに関しては不明である。本研究では、慢性的なDNA損傷ストレス環境下における、非コードDNA領域の安定性維持の分子機構とその生物学的意義を明らかにすることを目指している。平成24年度は、昨年度に引き続き(1)慢性的な紫外線ストレスによる突然変異誘発の分子メカニズムの解明、(2)非コードDNA領域の安定性に関与する損傷トレランス及び相同組換えの制御機構の解析を行った。 (1)慢性的な低紫外線環境によって誘発する突然変異のスペクトラム解析を行った結果、シトシンからチミンへの変異が顕著に増大することがわかった。さらに、シトシンの脱アミノ化によって生じるウラシルを含むピリミジン二量体をDNAポリメラーゼηが乗り越えてDNA合成を行うことが変異誘発の主要な原因であることを明らかにした。これら研究成果はNucleic Acids Res.誌において発表した。 (2)これまでの解析から、srs2変異株は、一倍体株に比べて二倍体において特に高いDNA損傷感受性を示すことや、倍数性による損傷感受性の違いは、相同染色体間の組換え制御の異常が関わっていることを明らかにした。本年度は、様々なsrs2変異体を用いた解析から、Srs2のリン酸化やSUMO化修飾の有無は二倍体特異的損傷高感受性に影響を与えない一方で、Srs2のATP加水分解活性を失った変異体は、二倍体細胞においてのみ細胞致死性を示すという興味深い結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、平成23年4月に大阪大学から学習院大学理学部へ異動し、研究設備のセットアップや新たな研究スタッフ及び学生の獲得に多少の時間を必要としたため、研究の開始に遅れが生じることとなった。しかしながら、平成24年度には、助教や研究補佐員の他、新たな学生も研究室に配属され、研究設備も含めてほぼ研究環境は整ってきている。その結果、当該研究課題に関していくつかの興味深い研究成果を得ることができた。特に、変異誘発の分子メカニズムに関しては学術雑誌にて発表したことや、相同染色体間組換え反応の制御に関して、Srs2変異体解析による結果を学会にて発表するなど、本年度の研究目的はほぼ達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
非コードDNA領域におけるDNA損傷応答を明らかにしていくために、今後は、以下の3つの研究テーマ毎に人員を配置し、精力的に研究課題を推進していく。1)慢性的なDNA損傷ストレスに対するゲノム安定性維持機構に関しては、次世代型シーケンサーを用いたゲノム配列全体を対象とした変異スペクトラム解析を行い、コード、非コード領域における変異スペクトラムの違いや、変異が起こりやすい脆弱領域の特定などを行う。2)非コード領域に存在する繰り返し配列の安定性維持に関して、繰り返し配列や相同染色体間、異所性組換えなどを配列レベルで検出する実験系を用いて詳細に解析する。特に、これらの組換え制御に重要な役割を果たしているSrs2 DNAヘリケースの役割を明らかにするため、様々なsrs2変異株を用いて解析行うことで異常な組換えと正常な組換え反応を制御する分子メカニズムを明らかにする。さらに、これまでの研究からsrs2変異株と類似した倍数体依存のDNA損傷高感受性を示す変異株を複数単離しており、これらも含めて解析を進める。3)DNA損傷や損傷に依存した複製阻害を最初に感知するクロマチン構造がその後の損傷応答を動的に制御する仕組みや、非コード領域における特徴的なクロマチン構造が損傷応答の制御に及ぼす影響をヒストン変異体等を用いて分子遺伝学的に解析する。
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