研究領域 | ゲノムを支える非コードDNA領域の機能 |
研究課題/領域番号 |
23114007
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
菱田 卓 学習院大学, 理学部, 教授 (60335388)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DNA損傷 / DNA相同組換え / 出芽酵母 / DNA複製 |
研究実績の概要 |
非コード領域は、その特徴として反復配列などが多く存在し、また、大部分の領域はヘテロクロマチンを形成している。これらの構造的特徴は、誤った修復の誘発やDNA損傷修復効率の低下の原因となりうるため、非コード領域ではDNA複製ストレス応答がゲノム安定性維持において重要な役割を果たしているがその詳細は不明である。本研究では、慢性的なDNA損傷ストレス環境下における、非コードDNA領域の安定性維持の分子機構とその生物学的意義を明らかにすることを目指している。平成25年度は、(1)慢性的なDNA損傷ストレス耐性に寄与する染色体動態解析及び、(2)非コード領域がDNA損傷耐性機構に及ぼす影響の解析、(3)慢性的な紫外線ストレスによって誘発される突然変異のゲノム情報解析を行った。 (1)複製ストレス応答に関与する新規のヒストン変異体の単離を目的として、ヒストンH3またはH4 の各一アミノ酸変異コレクションとrad18遺伝子欠損の二重変異株コレクションを約420株作製し、DNA損傷剤に対する感受性を網羅的に解析した。その結果、高感受性を示す変異体51株と耐性を示す変異体8株の単離に成功した。 (2)DNA相同組換え制御に関わるSrs2の変異体(srs2-KA)は繰り返し配列の不安定性を引き起こす。今回、それに加えて二倍体細胞特異的に致死性を示すという興味深い現象を見いだした。さらに、この致死性には、Srs2タンパク質のリン酸化やSUMO化、PCNAとの相互作用などはいずれも関係しない一方で、Rad51との相互作用に依存した現象であることを明らかにした。 (3)慢性紫外線環境において酵母細胞を数日間継代培養すると、当初は突然変異頻度が上昇するが、その後顕著に頻度が減少するという興味深い結果を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いずれの研究テーマにおいても、変異株の作製、実験系の構築などは期限内に終了しており、これらを使った研究から興味深い結果が得られているため。 (1)慢性的なDNA損傷ストレス耐性に寄与する染色体動態解析において、420種類にのぼるヒストンH3及びH4変異とRAD18遺伝子の変異との二重変異体作製に関しては、複数の変異体の作製において問題が生じたため、その対処に時間がかかったが、最終的に全ての二重変異株の作製に成功した。そして、新規のDNA損傷応答に影響を及ぼすヒストン変異を多数見いだすことができた。 (2)srs2KAは二倍体で致死性を示すため、ゲノム上にガラクトースによるSrs2KAの発現系を構築した。この株を用いることで、二倍体細胞においてSrs2KA発現がDNA相同組換え反応依存的に増殖阻害を引き起こすことを明らかにすることができた。 (3)慢性紫外線環境で継代培養を行った結果、3日目程度から予想に反して突然変異頻度の低下が起こることを見いだした。これは、慢性ストレスに対する耐性獲得とゲノム安定性維持を明らかにする上で非常に興味深い知見である。
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今後の研究の推進方策 |
概要に述べた3つの研究テーマについて、今後も解析を続ける。具体的には、(1)DNA損傷応答に影響を及ぼすヒストン変異体について、その原因を染色体構造、DNA損傷修復、DNA複製、DNA損傷チェックポイント、細胞周期、転写調節などの働きとの関連性を含めて解析する。(2)二倍体srs2KA発現細胞が組換えに依存して細胞死を引き起こす原因をさらに詳細に解析する。特に、Srs2KA発現による相同染色体間組換え中間体の検出をパルスフィールドゲル電気泳動やGFP-Rad52フォーカス形成の蛍光観察などによって検出し、細胞周期やDNA損傷剤処理等による影響を調べる。(3)慢性的な損傷ストレスが突然変異頻度に及ぼす影響を解析する。この変異頻度の変動が染色体の場所やアッセイ系に依存しないことを確認する。また、3日目以降の変異頻度の低下が起こっている細胞集団を詳細に解析すると共に、サプレッサー等の存在が考えられる場合は、ゲノム配列を次世代シーケンサーにより解読し、SNP解析によってその原因となる変異を同定する。
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