計画研究
本研究では、多様なゲノム機能が非コードDNAを介して如何に連係しながら維持・制御されているかについて明らかにすることを目標としている。具体的には、ヒト人工染色体を用いて染色体機能を構成的につくり出し、セントロメアと染色体諸機能との連係を統御するクロマチンネットワークの機構解明を目指して以下の研究を進めた。1. セントロメア機能構成因子の集合メカニズム:セントロメア反復DNAへのCENP-Bの結合はセントロメア機能集合の指標であるCENP-Aクロマチンを安定維持する機能があることを証明した(Fujita, Otake et al, 2015)。Mis18複合体と相互作用し、CENP-Aクロマチンの新規集合に関わるヒストンアセチル化酵素(HAT)複合体を同定した。このHAT遺伝子の破壊株では実際にセントロメアでのCENP-A集合が半減すること、このHATの下流でリモデリング因子等の多様な因子が集合し、クロマチン交換反応のネットワークが連動し始めることを明らかにした。2. 構成的手法によるクロマチンネットワーク解析:人工染色体を用いて、セントロメア機能集合に関わる因子とDNA複製や転写、損傷修復に関わる因子との連係するクロマチンネットワークの解析を進め、転写や複製と共通するクロマチンオープン化に関わるヒストン修飾やこれを抑制するヘテロクロマチン化修飾がセントロメア形成維持に対してもそれぞれ促進/抑制に関与していることを明らかにした。3. ネットワークのかく乱が引き起こす影響の解明:上記クロマチンネットワークをかく乱させた場合、染色体分配へ及ぼす影響について解析を進めた。ヘテロクロマチン化の増強(Suv39h1の過剰発現)は、上記Mis18複合体下流HATの遺伝子破壊株で顕著に染色体不安定化を引き起こすことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
各研究計画の本年度の成果は以下の通りである。1. セントロメア機能構成因子の集合メカニズム:セントロメアの非コードDNA上への CENP-Bの結合がCENP-Aクロマチンを安定化することを証明した(Fujita, Otake et al, 2015)。セントロメア機能集合の基本となるMis18の下流でのCENP-Aクロマチン集合機構の詳細を明らかにし、この成果は現在論文準備中である。2. 構成的手法によるクロマチンネットワーク解析:転写や複製とセントロメアは、クロマチンオープン化に関わるヒストン修飾やこれを抑制するヘテロクロマチン化修飾等のクロマチンネットワークを介してお互いに促進/抑制が密接に制御されていることを明らかにした。この研究成果も現在論文準備中である。 また、人工染色体を用いた非コード反復DNAの複製制御に関する成果は論文発表した(Erliandri et al, 2015)。 3. ネットワークのかく乱が引き起こす影響の解明:ヘテロクロマチン化の過剰な誘導はネットワークをかく乱し、染色体不安定化を引き起こすことを明らかにし、この成果も現在論文にまとめている。また、セントロメアでの強力なヘテロクロマチン化や転写活性化はいずれもセントロメア機能破壊を引き起こす知見を利用し、自己脱落制御可能な人工染色体ベクターを開発した(Kononenko et al, 2015)。他にも(Kononenko et al, 2014、Hasegawa et al, 2014)等、これらの成果を利用した論文もまとめた。 更に、セントロメア形成がクロマチン集合バランスにより制御される機構について論文にまとめた(Ohzeki et al, 2015)。以上により、セントロメアの集合維持を制御するクロマチンネットワーク解明を目指したそれぞれの研究は、当初からの計画通り順調に進展している。
本新学術領域研究の目標は、多様なゲノムの機能が非コードDNAを介して如何に連係しながら維持・制御されているのか統合的に理解することである。染色体分配機能に関わるセントロメアは、反復DNA領域に形成され、非コードDNAと染色体機能との連係機構に迫る絶好の標的である。しかし、必ずしもセントロメア構成因子が反復DNAに対して1:1の配列特異性のみで集合する訳ではない。このセントロメアの反復DNAにはヘテロクロマチンも集合し、セントロメア機能制御との関わりが指摘されており、さらにこの領域は染色体の維持制御ネットワークの主要センターとしても注目される。本研究では、人工染色体を用い、染色体の様々な機能を構成的につくり出し、セントロメアとヘテロクロマチン、染色体諸機能との連係を統御するクロマチンネットワーク機構の解明を進め、高次生命現象の制御の基本となる染色体メカニズムの実体に迫ることを目指して来た。特に、かずさcDNAライブラリーと人工染色体システムを利用して、ヘテロクロマチン集合とセントロメア集合とのバランス形成に関わる因子を解析する研究は様々な成果を見せている。最終年度はこれら成果をいくつかの論文にまとめることに重点を置くが、クロマチンネットワーク機構やこの破綻が多様な分化段階にある細胞にどのような影響を与えるかについても研究を発展させる。また、様々な長鎖非コード反復DNAの合成も進展しており、本研究で得られた成果を利用し、クロマチン構造を人為的につくり出すことにより、より効率の良い次世代人工染色体システムへと発展させる。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (5件)
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