研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
23115003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
永井 健治 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (20311350)
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研究分担者 |
金原 数 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30282578)
堀川 一樹 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (70420247)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | 少数分子系 / 分子個性 / 共同性 / 階層間相互作用 / コヒーレンス |
研究概要 |
本研究計画班では、生物における少数分子ネットワークにおける数および生理機能を定量可視化・操作可能とする技術の開発を目的としている。本年度は、【1】細胞内の生理機能を可視化可能な蛍光・化学発光センサー、【2】蛍光強度ゆらぎを利用する超解像顕微鏡に用いることができる高頻度ブリンキング蛍光プローブ、【3】光操作を可能とするタンパク質および合成化合物、【4】細胞性粘菌の多細胞体形成における細胞数依存性、を中心とした開発を行ってきた。 【1】に関しては、光活性化型カルシウムセンサーの開発に成功し、個体内における任意の細胞を光でハイライトしてカルシウムの計測が可能になった。 【2】に関しては、前年度に得た新規光スイッチング型蛍光タンパク質を用いてPALM, SOFI, RESOLFTなどの超解像イメージングを行い、特にRESOLFTでは従来の1000分の1の光照射で超解像イメージングを行うことが可能となた。 【3】に関しては、光照射によってカルシウムイオンを遊離するタンパク質の開発に成功し、細胞内の任意の部位におけるカルシウムイオンの濃度ジャンプを行うことを可能にした。また、ホスホジエステラーゼと光応答性タンパク質を融合したキメラタンパク質を用い、光によるcAMP濃度制御に成功した。また、アルキン部を有する非天然アミノ酸の導入による光応答性タンパク質のモジュール化にも成功した。 【4】に関しては、cAMPシグナル伝達の必須5因子についてゲノムのGFPタグ化を行い、細胞内での発現分子総数を計測した。その結果、シグナル入出力カスケードの上位から下位にかけて、細胞当たりの発現分子数が大きく減少することが明らかになった。最終エフェクターであるcAMP合成酵素を数千分子程度と少なく保つことで、反応ネットワークの機能制御点としていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞内の微小コンパートメント内における機能イメージングを実現するための第一歩として、世界初となる光活性化型カルシウムセンサータンパク質の開発に成功した。高頻度ブリンキング蛍光タンパク質の開発は順調であり、可逆的光スイッチング蛍光タンパク質へのスイッチング光の照射を工夫することで最適なブリンキング頻度を得ることができSOFIはもちろんのことRESOLFTやPALMが一つの蛍光タンパク質で可能になった。本蛍光タンパク質を光活性化型機能センサーと組み合わせることで、ナノメートルスケールの空間で生じる生理現象を分子の分解能で観察可能な超解像機能イメージングが実現しつつある。光による生理活性物質の分子数制御と組み合わせることで生理現象の分子少数性問題に切り込む基盤づくりがさらに進んだ。また、細胞内のシグナル伝達における代表的な分子の個数計測も進み、新たな知見が続出した。
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今後の研究の推進方策 |
高輝度発光タンパク質に基づく機能センサーと光により生理活性物質の分子数を制御可能な技術を組み合わせることによって、特に細胞が示す走化性応答の分子少数性問題に切り込む。また、新規光スイッチング型蛍光タンパク質を用いた超解像観察により、細胞内の極微小領域における分子数計測を推し進める。さらに、新規光スイッチング型蛍光タンパク質を応用した光活性化型生理機能センサーの開発を推し進め、機能超解像イメージング法を実現する。これらの技術開発と並行して、継続して細胞性粘菌内在遺伝子のタグ化を進めると共に、操作可能な機能性化合物を作製し、細胞に対して多方面から操作可能な技術の開発を引き続き行う。これらの技術を応用して、細胞内シグナル伝達システムの動作原理について少数性生物学的観点からの理解を進める。さらに、多細胞生物がシステムとして機能するために必要な細胞数がどのようにして決まるのかを探求する。
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