研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
23115006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 泰己 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20373277)
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研究分担者 |
大出 晃士 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40612122)
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研究期間 (年度) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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キーワード | 概日時計 / 少数性 / ターンオーバー制御 |
研究概要 |
マウス由来ES細胞から概日振動を誘導することに成功した。これを用いて、各種概日時計タンパク質ノックアウト細胞からES細胞を樹立し、ここに時計遺伝子を導入することで概日振動を補完する戦略(ノックアウトESレスキュー系)を進めている。現在までに、各遺伝子のノックアウトマウスよりPer1-ノックアウト(KO) ES、Per2-KO ES, Per1/2-ダブルノックアウト(DKO)-ES、Cry1/2-DKO ES, Ck1δ(fl-fl)-ES, Ck1CKIε-KO ESを樹立した。これらKO-ESに対して、時計遺伝子をゲノム上に相補するレスキュー実験系の構築を行った。KO-ES細胞のROSA26領域をターゲッティングしPer1, Per2, Cry1をそれぞれ染色体組み換えによって導入した。これによりPer1/2-DKO - R26::Per1、Per1/2-DKO - R26::Per2、Cry1/2-DKO - R26::Cry1、のレスキューES細胞を樹立した。このうち、Cry1/2-DKO - R26::Cry1 と、Per1/2-DKO - R26::Per2については、個体レベルで表現型(概日周期性の行動リズム)が回復する事を確認した。 この機能相補系を用いてタンパク質不安定化タグやリン酸化サイトを中心とした点変異を導入することで、Cry1についてはタンパク質のターンオーバーレートを実際に変調させることに成功した。実際にターンオーバーレートを変化させると、概日周期長に影響があることを確認している。 さらに、概日時計タンパク質の発現量変動を質量分析によって絶対定量することに成功した。現在、PerとCryの定量に成功しており、その他の時計遺伝子についても絶対定量を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度着手したターンオーバーレートの制御については、Cry1について導入・開発に成功し、ターンオーバーレートの変動が概日周期長に影響することを実測できた。また、Perについても機能相補系の構築に成功しつつある。従って、概日時計振動子を構成するネガティブフィードバックループを構成する転写抑制因子の機能相補系を整備することができた。TALENの高効率作成、および作成したTALENを用いた高効率な遺伝子組換えESの作成法を開発・最適化したことで、残りの時計遺伝子機能相補系の構築の加速が期待できる。 さらに、質量分析による複数の概日時計タンパク質の絶対定量に成功したことで、分子少数性を実測できた。これにより、ターンオーバーレートの測定を含め、概日時計タンパク質の日内発現量の変動を細胞内コピー数の変動として捉えることができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
「ES細胞・個体レベルでの概日時計ノックアウトレスキュー系の確立」 Cry1, Per以外の主要時計遺伝子についてもノックアウトES細胞に対して、TALENによるROSA26領域への高効率遺伝子ターゲッティングを用い、相補実験系の確立を目指す。ROSA26領域への遺伝子ターゲッティングで機能相補が確認できなかった場合、TALENを用いた野生型ES細胞の内在性遺伝子の直接改変を検討する。 「タンパク質少数性の定量とターンオーバー速度の定量」 質量分析計を用いたタンパク質絶対定量を用いて、概日時刻ごとの時計タンパク質の発現量変動を絶対定量する。定量対象としては、Cry1,Perのみでなく、CryやPerが制御するBmal1, Clockあるいは概日振動子ネットワークの中心的な制御因子として考えられている因子群(Dbp, ROR等)を含める。 「リン酸化反応の概日周期における頑強性・適応性の解析」 質量分析計をもちいて測定される概日時計タンパク質のカバー率を上げ、リン酸化サイトの完全な同定を目指す。各リン酸化サイトに対して変異を導入した変異時計タンパク質を、上記機能相補系に導入する。これによりリン酸化とターンオーバー速度、概日周期長の関係を調べる。機能相補系の整備が進んでいるCryとPerについて、特に注力して進める。
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