研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
23115007
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
冨樫 祐一 神戸大学, システム情報学研究科, 講師 (50456919)
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研究分担者 |
小松崎 民樹 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (30270549)
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キーワード | 生物物理学 / 情報幾何学 / 生体高分子 / 反応拡散系 / 複雑ネットワーク / Dynamic Disorder / 1分子時系列解析 / 数理モデル化 |
研究概要 |
計画初年度である本年度は、少数分子反応系理論の多成分ネットワークへの拡張と、1分子動態解析のための理論構築を進めるとともに、領域内の研究者との議論を通じ検証実験の方策を検討した。 少数分子成分が反応ネットワークの実効的組み替えを引き起こす可能性は、簡単なモデル反応系では示されていたが、生物のように少数分子成分を多数含む複雑なネットワークの振舞いの定量的予言に向け、本年度はまず、多成分触媒反応ネットワークのシミュレーションによる考察を進めた。細胞の成長・分裂のように成分を再生産する構造においては、ある適当な系の大きさ(分子の総数)があり、小さすぎると再生産が不可能になるのはもとより、大きすぎても成分組成の再帰性が損なわれる場合があることが見出された。即ち、分子が適度に少数であることの重要性が示唆された。 また、1分子酵素反応では、各素過程の反応速度定数は酵素分子がもつ多様な構造毎に異なり、基質濃度が高くなると、ゆっくりと変化する酵素分子の多型構造に由来して、反応は多様な時間スケールの揺らぎを持つと解釈されている(Dynamic disorder)。本年度は、閾値を設定してレベルの変化を評価する従来法と(情報理論に依拠する)変化点解析を系統的に比較・解析し、シグナル/ノイズ比が無視できない場合ならびにバックグラウンドノイズが一定でない場合は、従来法は誤った解釈を導く可能性が極めて高いこと、(従来法により)dynamic disorderが存在すると考えられてきたα-キモトリプシンにおいて、その存在は実は認められないことなどを見出した。この他、多変量データ間の高次相関の定量化と既約できないモジュール構造を抽出する情報理論的枠組みを開発した。これらは、1分子動態解析に関して、構造多型性など1分子レベルと集団レベルとの質的な違いを正確、かつ客観的に同定できるものとして期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題単独での理論研究は、概ね計画通り進行した。特に、1分子動態解析に関する成果は、既に行部を論文として公表した。研究員雇用に予定より時間を要するなど、いくつか問題も生じたが、いずれも解決の目途が立っている。行方で、実験との連携においては、領域内のA02-2班の実験結果を基に、情報探索に関する新たな共同研究の企画が進むなど、計画以上に進展した部分もあった。そのため、全体として上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
領域内の最新の実験結果の検討により、本課題の研究目的の枠組みの中で、新たに取り組むべき課題が明らかになってきている。すでに本年度、A02-2班との間で、具体的な計画の策定に取り組んだが、次年度の早期に、他の計画研究班、また新たに加わる公募班との間でも検討・計画策定を進める。 1分子実験との連携においては、観測値から内因性および外因性ノイズを除去し、背後の物理量を抽出する確度の高い評価理論を開発する。そのうえで、背後に存在する反応ネットワークおよびエネルギー地形を抽出し、少数系が多数系のダイナミクスへ影響を与えているかを評価する解析理論を展開する。 関連研究者の人数に比して取り組むべき小課題が増えつつあるため、優先順位を明らかにするよう努める。
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