研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
23115007
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
冨樫 祐一 広島大学, 理学研究科, 特任准教授 (50456919)
|
研究分担者 |
小松崎 民樹 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (30270549)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 生物物理学 / 情報幾何学 / 生体高分子 / 反応拡散系 / 複雑ネットワーク / 細胞個性 / 1分子時系列解析 / 数理モデル化 |
研究実績の概要 |
少数個の分子・サブユニット間の協調動作機構について、本年度は特に順序性の観点から、分子モーター(H24-25公募A02矢島班ほかと連携)、環状・らせん状の繰り返し構造を持つタンパクで考察を進めた。また、分子機械自身の動作のゆらぎと少数分子間の確率的反応のゆらぎとが反応拡散過程に質的に異なる影響を及ぼすことを、新たな解析法を構成しつつ示した。 少数性生物学に関する計測はS/N比が悪く、データの解釈を客観的に行うためには、有限のサンプル数および計測に由来する実験誤差を定量化し、誤差が許容する範囲内でできるだけ詳細な分子の個体差(個性)を読み取る必要がある。我々は、リサンプリング手法を用いることで、誤差の評価、誤差存在下での確実さの定量化が可能であることに注目した。情報理論におけるRate distortion理論と併用し、観測データから分子状態数・分子状態の安定性・エネルギー地形を読み解くアルゴリズムを開発した。この手法をAMPA受容体の一分子計測時系列データに適用し、イオンの膜透過活性に、従来考えられていた“閉じた”構造の安定性だけでなく、受容体-基質系がいくつの異なる分子状態を有するか、また、それらの分子状態間の行き来のしやすさも大きく影響していることを明らかにした。この方法論は汎用性が高く、1細胞ラマンスペクトルから細胞個性を分子階層で定量化するアルゴリズムの開発に着手した(A01-1野地班の藤田克昌氏と共同)。この他、F1-ATPaseの非定常な回転時系列データ(A01-1野地班)から背後に潜むエナジェティクスを解明することに成功した。加えて、細胞など非一様環境下での拡散過程に対するエネルギー論的な観点からの考察を進めたほか、前年度に確立した拡散時系列解析手法の分子モーター(H24-25公募A02矢島班ほか)・核内クロマチン構造(A02-2前島班)などへの適用を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、研究員の後任採用の遅れに伴い、分子機械の力学応答・協調動作のモデル改良・解析に関して若干の遅れが発生していたが、前年度終盤に適任者を採用できたことにより、本年度に入ってからは想定以上のペースで進展し、遅れは完全に解消した。また、前年度までに展開してきた領域内共同研究について、成果のいくつかが論文としてまとまり始めているほか、新たな課題への取り組みも始まっている。全体として順調であるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であるが、これまでの共同研究を確実に進めつつ、「少数性生物学」理論・解析手法の対象を広げる観点から、本年度から新たに加わった公募班との議論・共同研究を模索していく。一方で、これまで主としてシミュレーションにより考察してきた反応ネットワークにおける少数分子性の影響に関して、次年度は、数理科学としても堅固な基盤を築くべく、新たに研究協力者(研究員)を加えた体制で取り組む。データ解析では、本年度に開発したデータ駆動型数理モデリング手法を1細胞ラマンスペクトルの動態解析に展開し、細胞個性を分子レベルで定量化する新しい解析理論を開発する。また、多重な反応経路を考慮に入れた複雑ネットワークにおける遷移状態の定式化を行う。 本年度は前年度に引き続き、当班研究代表者がオーガナイズ、研究分担者をはじめとする参画者が全面的に協力し、領域の行事として少数性生物学データ検討会を2回開催した。提供された実験データと議論を通じ、現時点では理論的にも困難な課題がいくつか浮き彫りになってきている。領域全体の研究推進のため、当班以外の理論・計算を専門とする研究者と協力して、こうした取り組みを継続する。
|