研究領域 | 少数性生物学―個と多数の狭間が織りなす生命現象の探求― |
研究課題/領域番号 |
23115008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今田 勝巳 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40346143)
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研究分担者 |
内橋 貴之 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (30326300)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子機械 / 生物物理 / ナノバイオ / 生体分子 / 蛋白質 |
研究実績の概要 |
べん毛輸送システムの働きで行われる細菌べん毛形成は、輸送シャペロンや離合集散する可溶性輸送装置蛋白質など、多機能性を有する少数分子のふるまいが大きく影響する生命現象である。本研究では、べん毛輸送システムを再構築し、システムの構造を明らかにすると共に構成要素の数・種類・エネルギー源を操作して輸送を測定し、輸送装置の作動機構、べん毛形成の分子機構、べん毛本数決定のしくみを明らかにすることを目的としている。以下に今年度の成果を記す。 ・反転膜小胞人工系を用いた輸送計測から以下の多くのことを明らかにした。1)FliI単独の添加では輸送量は変化せず、FliH-FliI複合体の添加で輸送が桁違いに促進されることを発見。2)膜電位、pH差、ATP濃度を変化させた輸送実験から、FliIによるATP加水分解エネルギーのみで輸送が駆動されることを発見。3)輸送によるフックの再構築に成功し、人工系で連続的な輸送が起きることを証明。4)フック蛋白質FlgEの輸送がフックキャップ蛋白質FlgDにより促進されることを発見。5)ロッド形成がFlgE輸送に大きく影響することから、クラスII蛋白質にも輸送順序決定機構があることを示唆。6)FliKの添加により輸送基質特異性の切替えに成功。7)蛍光ラベルを導入した基質の輸送に成功 ・構造に基づく輸送シャペロンFlgNの変異実験から、FlgNのヘリックス1と2の間のループ欠損により、自身の集合体形成能、輸送装置蛋白質や輸送基質蛋白質との相互作用が大きく変化することを見出した。 ・輸送ATPase複合体の構造変化観察のため、40℃で観察可能な高速AFMチャンバーを開発。 ・細胞観察のため蛍光像と高速AFM像を同時観察するシステムの改良を行った。また、探針に金コロイドを付着させて探針増強蛍光を起こし、AFMのイメージング領域のみ蛍光像増強を行うシステムを開発した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反転膜小胞を用いた輸送計測系の改良がすすみ、膜電位、pH、ATP濃度など外部条件の変更、共存する蛋白質の種類や割合の輸送に対する影響が観察可能になったため。
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今後の研究の推進方策 |
・反転膜小胞人工系を用いて輸送の定量計測を行う。蛍光ラベルを導入した輸送基質や反応活性を持つ輸送基質を用い、蛍光計測による輸送量の定量や輸送の時系列データの取得を試みる。また、なるべく均一な大きさの反転膜小胞を作成する条件を確立し、A01グループが開発したデバイスを応用して反転膜小胞を一つずつ分離し、各小胞内に輸送された蛋白質を定量することで、輸送装置1つの輸送能を評価する。 ・ 膜融合を用いてA01野地グループが開発した平面膜チップデバイスへ組込み、輸送測定を行う。 ・ 反転膜小胞人工系を用いて輸送順序の決定機構を調べる。特に、各輸送基質の存在が他の基質の輸送にどのように影響するか、詳細に調べる。また、クラスIIIへスイッチ可能な反転膜小胞人工系を用い、クラスIIIへのスイッチメカニズム、輸送シャペロンの役割、少数基質分子の選択輸送を調べる。 ・温度制御型溶液チャンバーを使い、輸送ATPase複合体のヌクレオチド依存的構造変化の高速AFM観察を進める。蛍光顕微鏡/高速AFM複合機により、細胞膜のピット形成など表面形態ダイナミクスと細胞膜内側のタンパク質局在の同時計測を行う。また、この装置によりべん毛成長過程の観察を進める。
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