研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
23115102
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 亘彦 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00191429)
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研究分担者 |
藤島 和人 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (20525852)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 軸索分岐 / 視床 / 大脳 / 神経活動 / netrin-4 / 樹状突起 / 視床由来分子 |
研究実績の概要 |
神経回路の細部は自発発火や感覚入力により修飾されることが知られているが、その分子機構については不明な点が多い。この神経活動依存的な回路形成の機構を明らかにするために、視床から大脳皮質投射において視床軸索の分岐形成のメカニズムを研究している。 昨年度までにNetrin-4が神経活動依存的に大脳皮質での発現を増加させること、in vitroの実験系でNetrin-4が視床皮質軸索の分岐形成を促進させることを示した。本年度は、内在性Netrin-4の役割を解析し、さらに視床細胞に発現するnetrin-4受容体の同定とその役割の解析を行った。まず、遺伝子欠損動物において視覚系の視床皮質軸索(外側膝状体)ニューロンの軸索分岐が野生型に比べて有意に減少していることが明らかになった。また、In situ hybiridizationと結合実験の結果から、発達期視床細胞にUnc5BがNetrin-4の受容体として働き得ることが示された。以上の結果から、視床軸索の分岐形成においてNetrin-4-Unc5Bシグナルが貢献していることが強く示唆された(Hayano et al. 投稿中)。 以上に加えて、視床から皮質細胞への順行性の作用についても研究を行い、神経活動依存的タンパク質であるNeuritin-1とVGFが発達期に視床細胞に強く発現し、これら2つのタンパク質が軸索輸送に乗って皮質まで到達すること、さらにそれらが皮質4層細胞の生存と樹状突起形成を促進させることを明らかにした(Sato et al., The Journal of Neuroscience, 2012)。すなわち、Neuritin-1とVGFによる順行性シグナルが受け手である大脳皮質細胞を神経活動依存的に活性化し、次に活性化された皮質細胞が視床軸索に促進的に作用すると言うレシプロカルな機構のあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、Netrin-4による神経活動依存的な視床皮質軸索分岐の作用機序が明らかになったとともに、Neuritin-1やVGFによる順行性シグナルが一旦受け手側の皮質細胞を活性化することによって、送り手である視床軸索の分岐形成を促進させるメカニズムの存在が示唆された。前者の結果は今年度行った受容体の結果と併せて論文として再投稿する予定である。後者の結果は、2012年10月末にThe Journal of Neuroscience誌に掲載された(Sato et al.)。さらに、共同研究として視床皮質投射の形成がミクログリアによって調節される機構についても論文発表を行った(Hoshiko et al., J. Neurosci, 2012)。このように、得られた成果を論文として発表し、また学会での招待講演3件、国内外での一般講演7件、その他招待講演数件を行っており、研究発表も活発に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
Netrin-4の神経活動依存的な軸索分岐作用に関す論文の発表に最善を尽くすとともに以下の研究を推進する。 1.netrin-4の神経活動依存的な発現メカニズムを解析するため、ルシフェラーゼを用いたエンハンサー活性の解析を行う。また、皮質細胞が産生するNetrin-4の下流、即ち視床軸索側の受容体や軸索内シグナル伝達の分子機構を明らかにする。そのために、受容体の候補であるDCC、neogenin、Unc5に対するNetrin-4の結合実験、過剰発現実験、iRNAによる阻害実験をスライス培養やin vivoで実施する。さらに、Netrin-4ならびに受容体から下流の分子機構の解明を目指す。 2.ヒストン脱アセチル化酵素9(HDAC9)の作用についても解析を進めており、その核細胞質移動が視床軸索の分岐に関与する結果を得ている。この研究をさらに進めて神経活動依存的な遺伝子発現調節の機構を明らかにすることを目指す。また、その下流の分子機構についても解析を行う。
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