計画研究
PI3K-Akt経路の活性化状態におけるNrf2の機能増強の、生体における意義を明らかにするために、肝臓特異的なPten::Keap12重欠損マウス(PK-Albマウス)の表現型を詳細に解析した。PK-Albマウスは顕著な肝肥大を呈し、組織学的な検討では胆管様の管腔構造の増生が認められ、生後1ヶ月程度で致死となった。Pten::Keap1::Nrf23重欠損マウスの解析から、これらの表現型がすべてNrf2に依存することがわかった。以上の結果から、PI3K-Akt経路の活性化状態においてNrf2は、細胞増殖の促進に加えて、胆管細胞と肝細胞という細胞系列特異性の決定にも影響をあたえることが明らかになった。(Taguchi et al., Mol Cell Biol 2014)さらに、Nrf2による細胞増殖促進効果が、増殖シグナルの生理的な活性化の範囲で観察されるか否かを、門脈結紮による肝臓の代償性肥大を評価系として検討した。まず、代償性肥大の過程にある肝細胞で、PI3K-Akt経路が一過性に活性化することを確認した。そこで、Nrf2が恒常的に安定化しているKeap1欠損マウスで門脈結紮を行うと、非結紮葉は野生型マウスに比較して顕著に肥大した。また、Keap1欠損マウス肝でのNrf2標的遺伝子の発現は、通常状態に比較して、門脈結紮後の非結紮葉で顕著に増加していた。すなわち、肝の代償性肥大時には増殖シグナルがNrf2機能を増強させて肝細胞増殖を促進するものと考えられる。Keap1欠損マウスの肝臓において、非結紮葉とコントロール葉のNrf2の標的遺伝子の発現を比較すると、前者において2-3倍程度の発現増加が認められたことから、生理的な増殖シグナル存在下で、Nrf2は標的遺伝子の発現を増加させ、細胞増殖の促進をもたらすといえる。(Shirasaki et al., Hepatology, in press)
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では、平成23, 24年度にNrf2の複合体解析とChIP-シーケンス解析を実施することにしていた。しかし、がん細胞におけるNrf2の機能解析についての論文作成と論文改訂作業が予想外に長期化し、また、「代謝物によるNrf2機能の制御機構:IDH1変異分子の作用によりNrf2の機能抑制がもたらされる分子機構とその意義」の実験を先行させたことから、これらの条件検討の開始が遅れた。しかし、平成25年度には、Nrf2複合体解析の条件検討と2回の質量分析を実施することができた。一方、肝再生における代謝リプログラミングの解析は、予定よりも早く進行し、平成25年度中に2報の論文がMol Cell BiolとHepatologyとに受理された。
[1]Nrf2による同化反応制御機構Nrf2複合体解析 肝細胞でNrf2が活性化しているKeap1f/f::Albumin-Cre (K-Alb)マウスと、肝細胞でPI3K-Akt経路とNrf2がともに活性化しているPtenf/f::Keap1f/f::Albumin-Cre (PK-Alb)マウスから内因性のNrf2複合体を精製して、質量分析によりその構成因子の違いを定量的に比較する。現在、K-AlbマウスからNrf2複合体の予備的な解析結果が得られているので、今後、PK-Albマウスの複合体の精製を行う。[2]代謝物によるNrf2機能の制御機構NRF2が恒常的に安定化している細胞(A549細胞、H2126細胞など)と、NRF2の誘導的活性化が認められる細胞 (HBE1細胞、H292細胞など)に対して、野生型IDH1とIDH1 R132Hを導入して安定発現細胞を樹立し、NRF2の機能発現に対するIDH1 R132Hの効果の違いを検討する。 また、IDH1変異体過剰発現マウスを作成する。全身性にIDH1 R132Hを発現するトランスジェニックマウスを作成し、親電子性物質に対するKeap1-Nrf2系の応答が正常であるかを検討する。
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